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VMN セミナー情報

  • 専門医に学ぶ講演会
  • 科目
開催日: 2015年3月18日(水)

外科学セミナー2015

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報

講師

Clare R. Gregory, DVM, DACVS
Emeritus Professor, Department of Surgical and Radiologic Services,
School of Veterinary Medicine, University of California, Davis, CA, USA

演題

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報
犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢

関連ハンドアウト(参考資料)

  • 喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報(ご講演資料)
  • 犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢(ご講演資料)

オンデマンド

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.1
  • 一般外科/麻酔科

●喉頭麻痺
吸気時に披裂軟骨が外転できないことによる影響
部分的な上部気道閉塞に一致した呼吸器症状を引き起こす
先天性の病因
 遺伝性喉頭麻痺、先天性多発性ニューロパシー
後天性の病因
 外傷、腫瘍、多発性ニューロパシー、内分泌障害
後天性喉頭麻痺の最も一般的な病型は、高齢の大型犬で最もよく認められる。
 全身性末梢性多発性ニューロパシーによって生じる
 老齢期発症性の喉頭麻痺多発性ニューロパシーと呼ばれる
臨床症状、品種、病歴に基づいた診断の感度は非常に高い (90%)
 浅い麻酔下での喉頭検査によって確定する
後天性特発性喉頭麻痺はゆっくりと進行する疾患である。
 外科的矯正後の中央生存期間は3〜5年
一般に、披裂軟骨側方化術による外科治療によって喉頭麻痺に罹患した犬猫の大半は良好な機能が得られる。
それでも、吸引性肺炎は最も一般的で致死的な術後合併症になっている。
 患者の28%近くに発生する
この講義では、吸引性肺炎の発生率を抑えるための新しい考え方と、そのために考案されたテクニックについて説明する
●解剖学
甲状咽頭筋は甲状軟骨を覆っているため、輪状披裂関節にアプローチするために切断されることが多い。
甲状咽頭筋は甲状軟骨板の外側から起こり、咽頭の背側縫線に終止する。
嚥下時に咽頭を収縮させる。

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.2
  • 一般外科/麻酔科

●喉頭麻痺
吸気時における披裂軟骨と声帯ひだの完全または部分的外転不全
 喉頭筋の機能不全
 迷走神経または反回神経の機能不全
  背側輪状披裂筋の委縮
 輪状披裂強直症
上部気道閉塞
軽度から重度の呼吸困難
披裂軟骨が傍正中の位置に留まる
 重度の喘鳴中に、内側へ虚脱する可能性がある
 逆説性:披裂軟骨は、吸気時に内側へ動く
喘鳴と吸気時の圧上昇により、犬は吸引性肺炎を起こしやすくなる
 胸腔内陰圧によって、胃食道逆流、吐出および食道潰瘍が起こる
●先天性、遺伝性の複合疾患
 シベリアンハスキー、ダルメシアン、ブーヴィエ・デ・フランドル(疑核の変性)、ブルテリア
大半は特発性
後天性
 外傷、手術
 疾病: 多発性神経障害, 重症筋無力症, 甲状腺機能低下症, 腫瘍, シャーガス病.
片側または両側に罹患する
 片側性は通常、無症状である
大型犬種、高齢犬
 ラブラドールレトリーバー、アフガンハウンド、アイリッシュセッター
 雌よりも雄に多い
先天性のタイプは若齢犬にみられる

 品種および性差による傾向は
●喉頭麻痺
進行性の呼吸性喘鳴と運動不耐性の病歴
発咳、吐気, 嘔吐、声の変化
犬に嚥下障害、既存の神経疾患、巨大食道症があるかどうか確認する
 手術の禁忌
 永久気管切開術の方が適切な選択肢になる場合がある
全身性の筋肉萎縮および虚弱があるかもしれない

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.3
  • 一般外科/麻酔科

●生命を脅かす上部気道閉塞によって急性の危機的状態となり得る慢性疾患
 重度の呼吸困難、吸気性喘鳴,チアノーゼ
 重症の場合、呼吸音は最小限になることがある
 重度の場合、虚脱を生じる
 高体温症
 肺水腫または吸引性肺炎の場合、肺のラ音/喘鳴
 まず呼吸困難を治療し、その後に診断検査を行う
●救急治療:
酸素 
 マスク – 1〜3L/分
 経鼻酸素カテーテル – 100〜200ml/kg/分.
 酸素フード/ケージ
鎮静
 犬:ブトルファノール 0.2mg/kg + アセプロマジン 0.01 – 0.05mg/kg IV
   ヒドロモルフォン 0.1 〜 0.2mg/kg IV, IM, SQ
 猫:アセプロマジン 0.02 〜 0.05mg/kg IV, IM, SQ
   ジアゼパム: 0.2mg/kg IV
●その他
喉頭浮腫にはコルチコステロイド系薬剤
 リン酸デキサメサゾンナトリウム: 0.2 〜 1.0mg/kg IV
アルコール、扇風機、水浴で冷却
肺水腫が起こっている場合 – フロセミド 2〜6mg/kg IV
効果がない場合 – 麻酔、挿管, +/- 気管切開術
●気管切開術:
 仰臥位に寝かせ、首の下にタオルを入れる
 剃毛し時間的に許せば無菌準備を施す
 輪状軟骨から第6気管輪まで切開する
 上部の筋群を鈍性剥離し、気管輪を露出する– 第3および第4気管軟骨の間を切開 – 全周の約65% – あるいは気管軟骨全体
 臍テープ/ガーゼで固定ー密閉しない
気管切開は頭側に設置。第2から第4気管輪の間を縦切開する。
鉗子を使って気管切開部を開いてもよい。
臍テープでチューブを固定し、カフを膨らます。
気管切開は、気管輪の間で行ってもよい。気管輪の間の筋膜を裂いてしまうと、背側靱帯まで気管を完全に切断することになるので十分注意する。この方法の利点は、切開部の頭側と尾側の気管輪に支持縫合を通せるため、チューブが不注意に引き抜かれてしまった場合の再設置でも、それが支持糸として働いてくれることである。
●気管切開術 – 管理:
閉塞/移動についてモニターする
可能であればダブルルーメンを使用する-あるいはシングルルーメンを1日2〜4回清拭する– 新しいチューブと交換する
吸引– 3〜4回/日 無菌的に行う
 事前に酸素化する– 低酸素症/心肺停止の可能性がある
 カテーテルを気管支内まで挿入する-10秒間
 滅菌生食水が分泌物の軟化に役立つ
加湿/ネブライジング 4〜8時間毎

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.4
  • 一般外科/麻酔科

●喉頭麻痺診断– 急性の危機的状態が解決してから
無麻酔下での超音波検査
浅い麻酔下での喉頭検査
 ケタミン/ジアゼパム(2時間ほど作用が続いてしまう)
 プロポフォール/ドキサプラム (7.5 mg/kg/IV)
 チアミラールナトリウム 2mg/kg
披裂軟骨が外転しない
逆説的な動き
気圧性外傷によって赤く炎症を起こした声門裂
咽頭に腫瘤、異物、膿瘍がないか必ず調べる
必ず軟骨を触診する
 麻痺しているので容易に動く
 輪状披裂強直症/腫瘍の場合は固定している
ラボ検査所見
 呼吸障害の重症度を判定する。
 後天性喉頭麻痺を引き起こす原発性疾患をルールアウトする。
●ラボ検査所見
低酸素症 – Sp02 <90; Pa02<60mmHg (r.a.)
高炭酸ガス血症 – PaC02>60mm Hg
胸部X線検査 – 肺水腫/吸引性肺炎/その他の肺疾患
 前縦隔/心基底部腫瘤は反回神経を圧迫することがある
 食道拡張 – 食道機能不全 – 運動性の検査を考慮
頚部X線検査 – 腫瘤/軟骨の石灰化
T4, ANAの確認, 重症筋無力症の検査
●ラボ検査所見 – その他
筋電図検査 (全身性神経筋疾患), 1回呼吸流量・用量ループ分析, 食道の運動性検査
関連する病態を完全に評価しないまま外科的矯正を勧めてはならない.
重度の咽頭または食道機能不全の動物では披裂軟骨側方化術は禁忌である。永久気管切開術を考慮する
●内科的管理
体重減量
環境の変更:涼しく、湿度のある環境
熱中症を発症し、救急治療が必要になることがある
ストレスと重度喘鳴を緩和するには、アセプロマジン (0.02〜0.05mg/kg/IV) による鎮静と酸素が有効である
吸引性肺炎の場合は抗生剤
●麻酔と疼痛管理
カルプロフェン (2.2 mg/kg/SQ/BID) を手術前日から開始し、3日間継続する
グリコピロレートは、唾液分泌を抑えるために手術の30分前と術後4〜6時間目に投与する
セボフルレン(マスク)またはプロポフォールで導入
セボフルレンで維持
 迅速な覚醒と嚥下のコントロールが可能である
 術後の吸引性肺炎のリスクを低減する
 術後合併症率は10〜20%
疼痛と覚醒の遅れに対して麻薬系薬剤の必要はない
吸引性肺炎を避けるため、患者はできるだけ早く認知機能を取り戻す必要がある
このプロトコールでは大半の犬が術後10分以内に立てるようになる

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.5
  • 一般外科/麻酔科

●喉頭検査ー正常犬
●喉頭検査 –正常犬 麻薬系薬剤の前投与
●咽頭検査 – 麻痺
●喉頭検査 –麻痺 – 9歳のラブラドール
重度の線維化/側方化は難しい
●手術 – 披裂軟骨側方化術
輪状披裂関節の関節離断術
 関節包を切断すると、披裂軟骨を側方化しやすくなる。
 披裂軟骨の関節面が完全に見える。
 ポリプロピレン縫合糸を輪状軟骨に通す。
 背側の縫合糸を輪状軟骨の関節面に通す。
 従来の縫合糸の設置法:2本の糸を設置する、一ヵ所は披裂軟骨の背側、もう一ヵ所は腹側
 縫合糸を結紮したら、口腔内検査を行って披裂軟骨の側方化を確認する。
 手術では2本の縫合糸を設置し、一本が切れても確実にタイバックされるようにしておく。

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.6
  • 一般外科/麻酔科

●外科手術
頚静脈の腹側を切皮する。
皮下組織、広頚筋、脂肪を切開し、喉頭周囲の筋肉を露出させる。
広頚筋を切開する。
舌顔面静脈の腹側枝が、頭側に剥離する範囲の目印になる。
従来の術式では、甲状咽頭筋を切離して甲状軟骨にアプローチする。
甲状軟骨の内側で披裂軟骨を覆う膜を切断。
披裂軟骨の筋突起に終止する背側輪状披裂筋が見える。
背側輪状披裂筋の終止部の位置を確認し、その下の組織から分離する。
背側輪状披裂筋の下に鉗子を通す。
この筋肉を鋏で、または出血を抑えるために電気メスで切断する。
輪状披裂関節の関節包を鋏で切断する。
縫合糸を通すため、披裂軟骨関節面を容易に観察できるまで関節包を切っていく。
披裂軟骨の関節面を十分に露出する。
輪状軟骨にポリプロピレン縫合糸を通す。
披裂軟骨の関節面をにポリプロピレン縫合糸を通す。
軟骨を壊さないように、針をそのカーブに合わせて慎重に通す。
2本のうち1本目の縫合糸を設置。
2本の縫合糸をかけたら結紮する。
両方の縫合糸を結紮したら、手術時に口腔内検査を行い、披裂軟骨がタイバック(抑制)され、声門が開いていることを確認する。
●術後合併症
10〜50%の犬に発生する
披裂軟骨筋突起を破損させてしまうと、対側の側方化術も行わなくてはならない
発咳、吐気、吸引性肺炎
血腫/漿液腫に関連した喉頭の腫脹
喘鳴、呼吸困難の残存
喉頭虚脱 – 永久気管切開術が必要になる
披裂軟骨の不十分な側方化
主要な合併症は依然として吸引性肺炎である
抗生剤療法が必要である
入院と集中治療が必要な場合もある
再発するかもしれない
死に至る可能性もある

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.7
  • 一般外科/麻酔科

●質問:
披裂軟骨側方化術は喉頭麻痺の治療法として最適な外科手技なのか?
吸引性肺炎の発生を抑えるには、この方法を改良できないだろうか?
もっと良い方法が他にあるだろうか?
手術候補の患者をより慎重に評価しなければならないのか?
●質疑応答

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.8
  • 一般外科/麻酔科

●質疑応答
●声門を開き/閉塞を軽減するための別の方法
●喉頭部分切除術
声帯と小角軟骨の主要部分および声帯突起を切除する
気道の保護作用を損なわずに気流を確実に通過させるため、片側または両側に実施する
1980年代にペンシルバニア大学のHarveyらによって記述された
この方法は重度の腫脹が起こるため、術後に気管切開チューブの設置が必要になる場合がある
合併症は患者の約50%に認められる
 喘鳴の持続、発咳、嘔吐、吸引性肺炎、喉頭のウェビング、運動不耐性
合併症により、この方法が選択されることはまずない
最近、この方法が経口腔アプローチによるダイオードレーザーの披裂軟骨切除術として実施された
 20頭の犬に手術による合併症は報告されなかった
 長期的な追跡調査では10%が吸引性肺炎を発症した
 Olivieri et al. 2009

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.9
  • 一般外科/麻酔科

●腹側喉頭切開術による両側喉頭声帯切除術
腹側喉頭切開術のためのポジショニング
輪状軟骨と体舌骨の間に喉頭がある
皮膚と皮下組織の切開
胸骨舌骨筋の分離
甲状軟骨上の切開線
甲状軟骨を切開する。両側の声帯靱帯を十分に露出できるように正中で行う
右側声帯靱帯。鉗子は喉頭室内にある.
声帯靱帯を鉗子で把持し鋏で切除する
曲の鋏で声帯靱帯を切除する
声帯靱帯の切除後露出された声帯筋を鉗子で把持し切除する
声帯筋の複数箇所を切除すると、喉頭壁粘膜と喉頭室の間に大きな欠損部ができる
粘膜の辺縁同士を並置縫合し靱帯と声帯筋を切除した欠損部を閉鎖する
喉頭室の粘膜を引き出したり戻したりしながらできるだけ喉頭室腔を小さくする
粘膜閉鎖の完了
左側の声帯靭帯
声帯靱帯と声帯筋の切除
左側の処置が完了したら吸収糸を使用して粘膜を閉鎖する
甲状軟骨をナイロン糸の単純結節縫合で閉鎖する
甲状軟骨の閉鎖:軟骨の辺縁が重ならないように均等に並置させることが重要である
胸骨舌骨筋と皮下組織の閉鎖
ステープラーまたは縫合糸で皮膚を並置縫合する
●腹側喉頭切開術による両側喉頭声帯切除術
術後早期の合併症 – 88頭中6頭
 回復可能な吸引性肺炎
 漿液腫 – 2 頭
 複数の問題を持つ犬1頭で上部気道閉塞の症状が持続した
 吸引性肺炎後の突然死
 麻酔後の神経障害
遅発性の術後合併症 – 42頭中5頭
 転帰は39頭(93%)で満足の行くものであった
 回復可能な吸引性肺炎が1頭
 感染を繰り返した犬が1頭;安楽死
 急性呼吸窮迫症になった犬が1頭;安楽死
 吸引性肺炎をたびたび起こした犬;安楽死
●腹側喉頭切開術による両側喉頭声帯切除術と片側披裂軟骨側方化術との比較
LPと診断された犬5頭からなる2群
当初、両群とも手術への反応は良好であった
2群間で1回呼吸流量・用量ループ分析または上部気道抵抗の測定値に差は認められなかった。
喉頭声帯切除術群の犬2頭は喉頭虚脱を起こした
犬88頭の研究では認められていない

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.10
  • 一般外科/麻酔科

●経口腔アプローチによる両側喉頭声帯切除術
83%までの犬に改善が報告された
創傷部はそのまま肉芽組織によって閉鎖させた
ウェビング(喉頭腹側の瘢痕形成)が犬の13%で報告された
声帯靱帯切除を2週間ごとに段階的に行うことで問題を回避できる
腹側アプローチによって、声帯靱帯/声帯筋をさらに完全に切除することができる
●永久気管切開術
吸引性肺炎のリスクが高い患者に考慮する
全身性ミオパシーおよび筋力低下の患者
咽頭麻痺を示唆する嚥下障害の病歴
 空咳ならびに、咽頭の裏側に唾液が溜まっている音が一般的な特徴である
再発性吸引性肺炎の患者
持続性巨大食道症の患者
 呼吸困難の患者では、胸部X線検査で呑気による巨大食道症を示すことがある
●永久気管切開術-術式
腹側正中切開. 胸骨舌骨筋を分離する. 気管を挙上し、気管背側の筋肉に縫合糸を通す
筋肉同士を縫合することで気管を皮膚まで挙上させる
軟骨を切除する際、可能であれば粘膜は温存する.
ほとんどの症例では、永久的な開口部は以前に一時的な気管切開を行った部位に作成するため、粘膜はすでに損傷および腫脹している. そのような場合は、粘膜の辺縁を慎重に確認して皮膚と並置させなくてはならない
粘膜と皮膚を吸収糸で並置縫合する. 開口部の幅は3-4気管輪の長さを取る
●文献で報告されている術式の比較
●片側性披裂軟骨側方化術に対する修正案
片側性披裂軟骨側方化術は気道抵抗の低減には有効だが、吸引性肺炎のリスクは高くなる
これは、披裂軟骨を過剰に外反させる結果、喉頭蓋が声門裂を完全に塞ぐことができないためと考えられる
気道抵抗を低減するだけでなく、吸引性肺炎の発生も抑えるような開口部を作成するのに、極度の外反や縫合糸の強い結紮は必要ないと思われる

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.11
  • 一般外科/麻酔科

●披裂軟骨の外反量を低減し機能的な気道抵抗を維持できるテクニック
輪状軟骨と披裂軟骨の間に縫合糸を通すための目印
披裂軟骨の過剰外反による吸引性肺炎のリスクを抑えつつ、喉頭の気道抵抗を十分に低減させるには、輪状披裂関節の尾側縁と輪状軟骨の縫合が適している。
輪状軟骨に縫合糸を通すところ(この方法では、縫合糸を輪状披裂関節のすぐ尾側の輪状軟骨から出す。こうすることで披裂軟骨の外反する程度を制限できる)
●甲状披裂軟骨側方化術 vs 輪状披裂軟骨側方化術
自然発生性喉頭麻痺の犬 20頭
甲状披裂軟骨側方化術の犬では、声門裂の面積増加は140%であった
輪状披裂軟骨側方化術の犬では、声門裂の面積増加は207%であった
6週目の気道機能の改善については、2群間に有意差はなかった
2群の平均手術時間は、甲状披裂軟骨側方化術は25分、輪状披裂軟骨側方化術は43分であった
●甲状咽頭筋損傷の軽減
甲状咽頭筋は嚥下における重要な役割を持つ
 嚥下時に咽頭を圧迫する
 輪状披裂関節に従来のアプローチを行う場合に切開される
 この筋肉を損傷させると、術後に嚥下困難になってしまうか? それによって術後期に吸引性肺炎を起こしやすくなるのか?
甲状咽頭筋は、輪状披裂関節を露出するために切断される。
甲状咽頭筋の筋線維の間を分離すると披裂関節を露出できる。こうすることで術後の嚥下困難を軽減できる
●披裂軟骨側方化術の失敗を防ぐには輪状披裂関節を外さなければならない
過去の喉頭麻痺の治療には、関節を外さない披裂軟骨のタイバックとキャストレイテッド喉頭切開術を併用していた
術後約6ヵ月で50%を超える犬に呼吸困難の症状が生じた
披裂軟骨のタイバックは失敗であった
直視下手術と喉頭鏡による「最小侵襲性」手術のどちらを行う場合でも、ポリプロピレン縫合糸で甲状軟骨を披裂軟骨に、外側から内側へとマットレス縫合していく。針の向きを変え、縫合糸を披裂軟骨から甲状軟骨に、内側から外側へ通してマットレス縫合を完了する。その後、結紮する。初期に気道抵抗の減少が起こるが、多くの場合、短時間だけである。
気道の動きと共に縫合糸も周り続けて破綻する。 結果として線維化を生じた輪状披裂関節を外さないと、披裂軟骨が内部へと落ち込み、声門裂が再び閉塞する。
●術後管理
過剰に鎮静しないこと – 吸引性肺炎
吸引性肺炎が疑われる場合は胸部X線検査、完全血球計算を行う
犬は呼吸できるようになるので、術後は一般に長時間眠るようになる
嚥下障害について引き続きモニターする
全般的な筋萎縮は持続することになる
先天性喉頭麻痺の犬は繁殖に用いないこと

喉頭麻痺、手技と合併症に関する最新情報 Vol.12
  • 一般外科/麻酔科

●喉頭麻痺 – 猫
猫ではまれな疾患である
犬と同様に先天性と後天性がある
原因
 多発性ニューロパシー、多発性ミオパシー、外傷、迷走神経の腫瘍、反回神経を圧迫する腫瘤
●臨床症状
声の変化
食事中の発咳または吐気
吸気性喘鳴、呼吸困難
チアノーゼまたは虚脱
●喉頭麻痺 – 猫
14頭が喉頭麻痺と診断された
全頭が片側披裂軟骨側方化術による外科治療を受けた
術中合併症
 披裂軟骨筋突起の骨折 -2 頭
 輪状披裂軟骨の縫合糸にテンションをかけ過ぎた事による喉頭の左方変位– 縫合糸を掛け直したことで喉頭は正常な位置に戻った
術後合併症
 過剰輸液による肺水腫
 1頭は呼吸困難が再発した – 検査しなかった
 8年間のフォローアップでは吸引性肺炎の発症は報告されていない
呼吸困難、吸気性喘鳴、発咳/吐気または声の変化が認められる猫では必ず、鑑別診断として喉頭麻痺を考慮すべきである
喉頭麻痺と共に多発性ニューロパシー/ミオパシーの症状がある猫は、完全な神経学的評価を行うべきであり、できれば筋電図も含める
猫の喉頭麻痺の治療は、片側披裂軟骨側方化術が適している
猫の術後の吸引性肺炎はおそらく、犬ほど問題にはならない
●喉頭麻痺– 最終的な考え
片側披裂軟骨側方化術は、喉頭麻痺の犬猫において呼吸困難を緩和するための優れた方法であることに変わりはない。
 吸引性肺炎の発生を抑えつつ呼吸性喘鳴を制御できる側方化の減少法について評価すべきである
 輪状軟骨に縫合糸を設置する変法、甲状披裂軟骨側方化術
腹側アプローチによる両側喉頭声帯切除術は片側披裂軟骨側方化術の代替法として適しているかもしれない
 披裂軟骨を外反しない
 報告されている吸引性肺炎の発生率は低い
症例を慎重に選択することが非常に重要である
どの嚥下障害の症状が見られた場合でも、必ず手術の前に完全な身体検査、画像検査、神経学的評価を実施する。
以下の問題がある犬には、永久気管切開術を考慮すべきである:
 嚥下障害の臨床症状がある、空咳、唾液を飲み込めない
 著しく進行性の多発性筋炎、多発性ニューロパシー、巨大食道症がある
 再発性吸引性肺炎
●喉頭麻痺– 参考文献と推薦図書

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.1
  • 一般外科/麻酔科

●腎臓結石(腎結石)および尿管結石
下部尿路の結石よりもはるかに少ない
 分析のため研究機関に提出される尿結石全体の1-4%を占める
以下の問題と関連している:
 閉塞、再発性腎盂腎炎、進行性慢性腎臓病
今日では、腎臓結石と尿管結石は20年前に比べて非常に一般的になっている
 特に猫の上部尿路に発生するカルシウム含有性の結石
●尿路結石の発生率推移
ストルバイト- リン酸アンモニウムマグネシウム
 1980 – 88%、1989 – 70%、1991 – 64%、1994 – 34%
シュウ酸カルシウム
 1984 – 5%、1994 – 55%
15年の間に、ストルバイト含有結石に対してシュウ酸カルシウム含有結石の比率が有意(P<0.001)に増加している。
猫の上部尿路(腎臓および尿管)に発生したシュウ酸カルシウム含有結石の数。シュウ酸カルシウム含有結石数の増加は有意(P=0.03)であった。
●猫のシュウ酸結石がこれほどまでに増加した原因は?
ナトリウムまたはカリウムの少ない食事、あるいは、尿酸性化を最大限にもたらすよう調整した食事
シュウ酸尿石症の危険性を抑える食事:
 タンパク質と水分の含有量が多い
 ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量が多い
 尿酸性化能が低い
●2015年現在
シュウ酸カルシウムは犬猫の腎臓結石および尿管結石の最も一般的な成分である
猫で2番目に多い腎臓結石の成分は乾燥凝血結石である
ストルバイトは犬で最も多い腎臓結石である
 ストルバイトはしばしば感染によって誘発され、Staphylococcusのようなウレアーゼ産生菌による腎盂腎炎から二次的に生じる。
●腎臓結石
腎盂または尿管を閉塞することがある
腎盂腎炎の素因になる
腎実質に圧迫損傷を引き起こす
 進行性慢性腎臓病につながる
上述のような問題を一切起こさない腎臓結石は、“不活性”なものとみなす
 除去する必要はない
 尿検査、尿培養検査、X線検査、超音波検査を定期的に行ってモニターする必要はある
犬における結石除去の適応症:
 腎臓あるいは尿管の閉塞、再発性尿路感染症、腎臓結石の進行性拡大、疼痛などの臨床症状の存在、機能している側の腎臓に腎臓結石が存在する
猫の上部尿路結石を除去する最も一般的な適応症は 尿管閉塞である
 猫の非閉塞性腎臓結石は、尿管閉塞を起こさない限り通常は治療しない
 非閉塞性腎臓結石が猫の慢性腎臓病の進行におよぼす影響は最小限である

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.2
  • 一般外科/麻酔科

●腎切開術
結石を除去するために実施する
小型の結石は拡張した近位尿管から除去できる
結石の位置はX線検査、超音波検査、コンピュータ断層撮影法などで特定する
●腎切開術 - 手技
腎臓を腹膜から遊離させる。
助手が腎臓を支持する。助手は指の圧迫で腎動静脈を閉塞する。
正中線上に、腎臓全長の約1/3の切開を行う。切開は皮質から腎盂内まで行う。特に猫では約1/3までに注意。
結石を除去する。
腎盂をプロービングと共に触診し他に結石が残っていないか確認する。腎盂と尿管を生理食塩水でフラッシュする。
腎被膜を吸収糸でマットレス縫合または十字縫合する。
●術後管理
尿産生量のモニター
BUN/クレアチニンのモニター
血尿は一般的であるが、24〜48時間で消退する
UTIには適切な抗生物質療法
●外科的切開による腎皮質への損傷は?
インターベンショナル・ラジオロジストからは、直視下手術は腎機能を損なう可能性があると評されている。
●「腎切開術が犬の腎機能におよぼす影響」Vet Surg 31:391, 2002
結果
 術後1、3、7、14、28日目の血清クレアチニンおよび血中尿素窒素濃度は、ベースラインから変化していなかった。
 術後3日目、総GFRはベースラインから176%に増加し、セグメント間腎切開術と二分割腎切開術の間で個々の腎臓のGFRの間に差はなかった。
 第7、14、28日目の両腎および片腎のGFRはベースラインと差がなかった。また、セグメント間腎切開術と二分割腎切開術の間にGFRの差はなかった。
●組織病理学
どの時間点の腎臓も、髄質の梗塞または変性は最小限であり、それ以上の病態は認められなかった。
第29日には、皮質の軽度から中程度の梗塞および変性が、両方のタイプの腎切開術と関連していた。
皮質または髄質の石灰化を示した腎臓はなかった。
●臨床的意義
セグメント間または二分割腎切開術はいずれも、術後の全ての時間点で、腎臓のGFRに悪影響を及ぼさなかった。

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.3
  • 一般外科/麻酔科

●尿管 - 腎盂切石術
結石は拡張した尿管から除去できる
●体外衝撃波砕石術(ESWL)
治療の目標は、尿結石が尿管を通過して自然に排泄できるよう十分小さく破砕することである
ESWLは、大半の犬では通過可能な大きさまで破砕するが、猫ではあまり有効ではない
 猫の尿管腔径は極めて細い
 猫の尿結石は破砕に対して比較的抵抗性である
犬では、初回のESWLだけでは断片が大き過ぎで尿管を通過できないことがある
 治療を追加する必要があるかもしれない
ESWLの治療には患者を不動化させるための全身麻酔が必要である
尿結石に正確に照準を合わせ、衝撃波によって周囲組織を損傷させないよう、透視ガイドを使用する
衝撃波誘発性の不整脈を起こさないよう、患者の心電図にあわせて衝撃波を起動させる
両側の腎臓結石がある犬では、1回の処置で両方の腎臓を安全に治療することができる
両側に大型の腎臓結石がある犬では、事前に尿管ステントを留置しておくことで、結石の破片が尿管を通過する際に閉塞する危険を低減できる
約85%の犬はESWLによって腎臓結石の破砕と除去が成功している
約30%の犬は腎臓結石を完全に破砕するため、2回以上のESWL治療が必要である
結石の断片(<1 mm)の通過には通常1〜2週間を要するが、結石が完全に排泄されるには3ヶ月ほどかかる場合もある
閉塞性の尿管結石がある犬では、ほぼ80%の結石をESWLで除去できる
直径が5mm以下の尿管結石には安全な手技である
ほぼ50%の患者は、2回以上の治療を行って尿管結石を除去する必要がある
埋没した尿管結石は腎臓結石に比べて破砕が難しい
ストルバイト、尿酸、およびシュウ酸カルシウム結石は、シスチン結石よりも破砕しやすい
●ESWLの合併症
腎臓結石を治療した犬の約10%で、尿管を部分的に閉塞する一過性の尿管結石を生じる
尿管ステントの装着またはESWL治療を繰り返し行う
右腎の切石術は膵臓を損傷させる可能性がある
約2%の犬が急性膵炎を発生している
まれな合併症として、腎周囲血腫および衝撃波誘導性心不整脈がある

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.4
  • 一般外科/麻酔科

●経皮的腎切石術
超音波、腎盂鏡、X線透視法を併用することで腎盂内にアプローチでき、超音波、電気水力学的装置、あるいはHolmium:YAG
レーザー装置などを用いた腎盂鏡による体内砕石術のガイドとして役立つ
ESWLが成功しなかった場合、シスチン結石が存在する場合、または直径が15mmを超える結石がある場合の結石除去に考慮される
極めて小型の結石や断片は、尿管を下降していかないよう直接除去できる
合併症は出血および近位尿管の裂傷である
非常に大型の結石や複数の結石がある場合は、その周囲で機器を操作することが難しい場合がある。
●尿管結石
犬猫における除去の適応症:
 腎盂あるいは結石近位の尿管に進行性または著しい拡張があることで尿管閉塞が証明されている場合
 片側性または両側性に発生することがある
 臨床症状は両腎が罹患して初めて発現する
  食欲不振、嘔吐、有痛性排尿困難、慢性腎不全の急性増悪症状
犬猫における除去の適応症:
 尿管閉塞は、部分閉塞または完全閉塞に関わらず、短期間で腎機能を劇的に低下させるため、迅速かつ効果的に治療すべきである
 尿管が完全閉塞すると直ちに腎盂内の圧力が上昇し、腎血流量は最初の24時間で60%減少し、2週間以内には80%減少する
  このことから糸球体濾過量が減少する
  正常であれば対側の腎臓が糸球体濾過量を増加させる
尿管閉塞が長引くほど、損傷はさらに進行する
完全閉塞が7日間続くと、GFRの35%が永久的に減少する
2週間、完全閉塞するとGFRの54%が永久的に減少する
既に腎疾患がある、正常な腎機能が25%未満、および、代償機構が枯渇している犬猫では、GFRの喪失はさらに重度になることが予測される
積極的かつタイムリーな介入が必要である
●腎臓結石および尿管結石の診断
完全血球計算、血清生化学パネル、および尿検査によって腎機能不全を証明する
●腹部X線検査
X線不透過性の結石は一般に、犬猫では尿管閉塞と関連している
腎臓結石と尿管結石のどちらも、結石の大きさ、数、位置を記録するのに有用である
●腹部超音波画像検査
腎盂ならびに、閉塞部から近位および遠位の尿管径を測定できる
水尿管症、水腎症の診断および、最も近位にある閉塞病変の正確な位置決めに優れている
水尿管症は存在するが、拡張した尿管と正常な尿管との接合部に結石のシャドーイングを証明できない場合、尿管狭窄である可能性がある
水尿管症および水腎症が尿管の部分的な領域に認められる場合は、部分的または完全な尿管閉塞である
超音波の横断画像で腎盂径が13mmを超えている場合、ほぼ常に閉塞が関連している
腎盂径が8mmを超えている場合は尿管閉塞を強く示唆する
腎盂径が8mm以下の場合は尿管閉塞、腎盂腎炎、多尿、または慢性腎臓病が関連している可能性がある
●コンピュータ断層撮影法 +/- 造影
両腎および尿管内の結石の位置を正確に知ることができる
結石の正確な数が分かる
組織石灰化と真の閉塞性尿結石を鑑別できる
おそらく、管腔内と壁内の尿管結石を鑑別できる
●シュウ酸結石の検出
超音波
 超音波スキャンの解釈は注意深く行う
 腎盂および尿管壁の石灰化は閉塞と関連していないことがある
●腎臓結石および尿管結石の診断
両側性の尿管閉塞は猫の約15-25%、犬の約12%に発生する
犬の尿管閉塞はストルバイト結石によって発生する
 猫では閉塞の98%はシュウ酸カルシウム結石によって起こる
閉塞性結石を食餌療法や内科療法で消退させることは、時間が掛かり、腎臓に過剰な損傷を与え、機能喪失を招くため禁忌である

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.5
  • 一般外科/麻酔科

●猫の大腎/小腎症候群
1つの腎臓が不全に陥ると腎不全が明らかとなり、第2の腎臓は尿管に停溜した結石により閉塞する。
この静脈性腎盂造影写真は、水腎症となった右腎および萎縮した左腎を示している。
●X線検査
シュウ酸結石はX線不透過性
●コンピュータ断層撮影法
●尿管結石の内科的管理
IV輸液投与および利尿剤
 平衡電解質輸液を2〜4 ml/kg/時で投与する
 中心静脈圧、体重、電解質濃度、水和状態をモニターする
 心機能不全でない患者では、マンニトール(0.25〜0.5 gm/kgを20〜30分かけてボーラス投与、次に定速輸液を1mg/kg/分sw24時間)を投与してもよい
 アルファ1阻害剤のPrazosinは交感神経緊張を低下させる(猫:0.25 mg/頭 BID、犬:1 mg/15kg BID)
 尿管結石の通過を促す
 X線検査または超音波検査を連続的に実施して経過を追う
グルカゴン
 DavisのForman et alは、有益性がなく中毒性副作用があることを示した
アミトリプチリン
 尿路の平滑筋収縮を阻害することが報告されている
 臨床報告は結石に関するものではなく、栓子についてのみである
超音波検査および血清生化学パネルを継続的に行い、24時間経っても患者の病状に改善が見られない場合は治療を終了する
 中程度に改善した場合は、もう2〜3日だけ治療を続けることもある
 過去の内科的管理は数日間試みられていた
内科的管理が不成功に終わった場合、または、患者が不安定になった場合
 高カリウム血症、過剰水和、乏尿症/無尿症、進行性の水腎症/水尿管
直ちに腎臓の減圧を考慮する
 腎瘻チューブ、尿管切開術、尿管膀胱吻合術、尿管ステント術、皮下の尿管バイパス、回腸尿管置換術、血液透析、腎移植術
尿管閉塞の患者の多くは、尿路感染症を併発している
猫よりも犬に多い
検査ではどの患者も必ず尿分析と尿培養を行う
●「尿管結石症の猫における管理および転帰:153症例(1984-2002)」
9頭は閉塞していた尿管結石が膀胱に下降した
17頭は治療に反応せず、1ヶ月以内に安楽死あるいは死亡した
研究が進むにつれ、内科治療の期間は19日から2日に短縮した

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.6
  • 一般外科/麻酔科

●外科手術/インターベンショナル・ラジオロジーによる結石の外科的除去
内科的管理が不成功に終わった場合
閉塞の程度から内科的管理は受容し難い場合
水尿管症または水腎症が証明されている場合
閉塞および(または)尿毒症の徴候が増しているにもかかわらず、結石は遠位に動いていることが、継続的なX線または超音波検査による結石の位置からは証明できない場合
尿管切開術よりも腎切開術や腎盂切石術のほうが望ましい
 結石を腎盂内に戻すよう試みる
 結石が尿管を裏打ちする粘膜に埋没していると、戻せない場合が多い
尿管はしばしば拡張し憩室を形成している;盲嚢
●結石/閉塞の除去 – 尿管閉塞の種類
Grade1:単純で、尿管壁の損傷は最小限である
Grade1A:尿結石が尿管壁に埋没している。除去は困難であり、おそらくステント術やバイパス術による治療が最良である。
●結石の外科的除去
Grade2:管腔内に複数の結石が存在する。おそらく尿管切開術 +/-ステント術または皮下バイパス術による治療が最良である。
Grade3:しばしば末期に近い。慢性狭窄を外科的に管理できなければステント術かバイパス術を行う。
Grade4:末期のため、尿管切除と膀胱吻合術またはバイパス術が必要である。
腎切開術と尿管切開術の併用は、尿腹症になる可能性がある
 尿管の切開部位は腫脹し、腎臓の切開部位は圧の低い出口となって尿が漏れ出る
尿管切開術を実施した後に、尿を迂回させるために腎瘻チューブを設置する
 脱落、閉塞、漏出が生じやすい
尿管の中間部から遠位部の閉塞は、尿管膀胱吻合術によって治療できる
 閉塞し病的な遠位尿管を切除し、近位尿管を膀胱内へ移植する
 前方膀胱固定術も併用する
●猫の尿管切開術
●膀胱フラップ尿管膀胱吻合術
●膀胱外尿管膀胱吻合術
●術後管理
尿産生量(輸液量および排泄量)、クレアチニン、BUN濃度をモニターする
酸塩基平衡および電解質の異常を補正する
尿腹症についてよく注意する
●外科的転帰
術後合併症発の生率は31%
 尿漏出および閉塞の持続
周術期死亡率 = 18%
 会陰尿道造瘻術では0%
 猫59頭; Bass et al, J Sm An Prac: 46, 227, 2005
術後少なくとも1か月間生存した74頭中61頭の猫でフォローアップ情報が入手できた
6、12、24カ月の生存率は91%、91%、88%であった
死亡は、進行性腎不全または再閉塞によるものであった
腎臓結石
 除去すべきか?
 現在、猫では推奨されていない
 外科手術、経皮的腎切石術では見つけることが極めて難しい
我々の研究では、14頭の猫が術後に尿管閉塞を再発した
この14頭中12頭は、手術時に腎臓結石が診断されたが、除去しなかった
同側の尿管切開術と腎切開術は尿腹症を防止するため段階的に行うべきである
●外科的転帰 vs. 内科的転帰
内科的管理 = 66%
外科的管理 = 91%

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.7
  • 一般外科/麻酔科

●尿管結石に対するレーザー砕石術
膀胱鏡または内視鏡で実施する
18〜20 kgを超える犬、または尿管を拡張するための ステントを装着している犬でのみ実施可能である
尿管結石は固定しているので標的にしやすいため、非常に有効な治療法である
尿管結石は一般に膀胱結石よりも小さいため、破砕に要する時間やエネルギーも少なくて済む
●尿管ステント術
犬猫共に、尿管結石や部分的な狭窄による尿管閉塞の解除に有効である
ステントは全長にわたって複数の側孔があり、ダブルピッグテール型の軟性ポリウレタン製カテーテルである
尿管閉塞をバイパスするには一過性の留置ステントとして用いることができ、必要なくなれば膀胱鏡で、または外科的に抜去できる
犬および一部の雌猫では、尿管ステントは膀胱鏡で設置することが最も多い
●尿管ステント術 合併症 - 猫
装着後の排尿困難;コルチコステロイド系薬剤で治療する
頻尿 – 17%
ステントの移動 – 5%
尿管炎 – 3%
ステント内への組織の伸展 – 7%
慢性の血尿 – 10%
尿路感染症 – 20%
外被形成 – ミネラル堆積物の付着 – 9頭中1頭の猫(写真あり)
●尿管ステント術 合併症 - 犬
一般に装着してから数ヶ月〜数年で認められる
ステントの移動 - < 5%
ステントの閉塞 – 9%
再発性尿路感染症 – 10 - 20%
●ステントの装着は難易度の高い手技である
臨床で実施する前にトレーニングと練習を重ねることが強く勧められる
それでも犬にはステントを推奨する
ニューヨークのAnimal Medical Centerでは、管理上の問題と合併症の発生から猫には皮下尿管バイパス装置の使用を推奨している
●皮下尿管バイパス装置
従来の手術やインターベンショナルな方法が禁忌となる場合に、尿管閉塞を迂回させるために作成された
Norfolk Veterinary Productsから2種類のサイズが出ている
(www.norfolkvetproducts.com)
 Le Petite Shunting Port – 猫と小型犬用
 Le Port Shunting Port – 大型の犬用
このシステムを扱う術者は、装置の適切なトレーニングを受けてから臨床患者への使用を考慮することが重要であると開発者は述べている
●皮下尿管バイパス装置 合併症
腎瘻/膀胱瘻チューブまたはシャント・ポートからの漏出
腎瘻チューブ装着中に起こる出血
凝血塊、膿性デブリス、結石によるシステムの閉塞
装着時のカテーテルのねじれ
尿路感染症 – 術後に15%
合併症の発生と交換の必要性が認められることから、開発者は、猫には尿管ステント術よりも当システムのほうが好ましいとしている(Berent and Weisse)
最大4年間使用されている
透視と超音波画像で装着するのが最適である

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.8
  • 一般外科/麻酔科

●回腸尿管置換術
1950年代にGoodwin et alが最初に報告した。内視鏡治療や他の尿管形成術、膀胱フラップ尿管形成術、対側尿管尿管吻合術などの手技が成功しなかった場合に適応する。
人の患者では、機能不全、狭窄、外傷、ならびに壊死した尿管を置換する方法として行われている
患者について約15年間のフォローアップが報告された
85%〜100%の患者は腎機能を維持している
人の患者では、過剰に長い回腸移植片は代謝性アシドーシスを助長することがある→重炭酸ナトリウムで治療する。
●猫における回腸尿管置換術の利点
移植片には、張力をかけずに腎臓から膀胱までの距離をつなげる長さがある
移植片の長さは容易に調整できる
回腸径は太いので閉塞や狭窄を起こす心配がなく、結石も容易に通過できる
回腸の蠕動運動が尿逆流や腎盂腎炎の防止を促す
●症例ー猫
輸液による利尿後もBUNとクレアチニン濃度は異常であった
手術時に、狭窄した尿管を回腸移植片で置換することを決定した
●回腸尿管置換術症例の術式
●症例の転帰
●症例のレントゲン写真
●症例のその後
この猫は術後5日で退院した
この猫は手術の1年後にStaphylococcus による尿路感染症を起こし、アモキシシリン-クラブラン酸で治療した
手術から18ヶ月後に静脈性腎盂造影を再度実施し、回腸移植片が十分に機能していることが認められた
手術から36ヶ月後、猫は通常の食事を食べており、BUN/クレアチニン濃度は正常値であった
代謝異常や慢性感染症の徴候はなかった
●回腸尿管置換術の利点
人の医療では長期的成功が証明されている
合併症が比較的少ない
鉱物、結石、デブリスによって閉塞したり、日常的な洗浄や交換が必要になったりする人工的な装置ではなく、動物自身の自然な組織を利用した方法である
●回腸尿管置換術の疑問
猫は代謝性アシドーシスになるのか?
尿の逆流を防ぐには移植片をどのくらいの長さにすればよいのか?

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.9
  • 一般外科/麻酔科

●猫の尿管狭窄
尿管全周の狭小または狭窄であり、通常は瘢痕により生じる
尿管の手術、損傷、炎症、埋没した尿石、後大静脈後尿管、および特発性に生じる可能性がある
狭窄による尿管閉塞は部分的または完全である
 超音波検査では狭窄部近位で拡張した尿管が認められ、水腎症を伴っている
 狭窄の特定と位置決定には、透視/内視鏡による順行性または逆行性尿管腎盂造影を行うとよい
●尿管閉塞X線写真
●治療の選択肢
部分閉塞では、患者を内科的に管理し、尿管の太さを継続的にモニターする
猫では膀胱内に吻合する
犬では対側尿管尿管吻合術
犬では尿管切除術および吻合術
尿管ステント術
皮下尿管バイパス
回腸移植
●報告されている治療の合併症
ステントの閉塞
軟部組織による皮下尿管バイパス装置の閉塞
修正を要する尿管膀胱吻合部の狭窄
最も一般的に遭遇する合併症は尿路感染症
●シュウ酸尿石症
猫の尿路閉塞における一般的な、そして非常に致死率の高い原因である
当疾患の自然経過はまだ十分に解明されていない
●シュウ酸尿石症-腎移植
全ての猫の平均生存期間は605日であった
8頭は術後282〜2005日生存した
11頭は術後2〜1197日で死亡した
5頭の猫は移植腎にも結石を形成した(26%)
●臨床的意義
腎移植術は腎不全およびシュウ酸尿石症の猫の治療において実行可能な選択肢である
●ANTECH Diagnosticsの2015年ガイドラインより
CaOx結石の内科的溶解は実施不可能であり、適応であれば結石は機械的に除去すべきである
再発は一般的である
除去後の考慮点
 高カルシウム血症、代謝性アシドーシス、副腎皮質機能亢進症、および尿路感染症について評価する
 グルココルチコイド系薬剤およびフロセミドの使用を避ける
 水分摂取量を増加して(缶詰フードなど)尿比重を1.020未満に抑える
 酸性化食は使用しない
 リン、カルシウム、またはナトリウム制限食は使用しない
 ビタミンC、ビタミンD、およびカルシウムのサプリメントは与えない
●除去後の考慮点
食餌療法を行っているにもかかわらず、シュウ酸カルシウム結晶が持続し、あるいは尿結石が再発したら、ヒドロクロロサイアザイドを投与して尿中Ca濃度を低下させ、クエン酸カリウムを投与して絶食時の尿pHを6.5〜7.5に維持するといった方法を検討する

犬猫の腎尿管結石症および尿管狭窄症の管理における現在の選択肢 Vol.10
  • 一般外科/麻酔科

●最終的な考え
犬猫の腎臓結石および尿管閉塞/狭窄には数多くの治療選択肢がある
どの方法にも技術的な難しさと合併症を伴う
全ての症例に適用できる唯一のシステムというものはなく、それぞれの患者と飼い主にとっての利点/欠点を比較検討する必要がある
費用面での制約、施設の場所、そして機器や高度画像診断技術の利用可能性が、しばしば臨床家や飼い主の選択肢を狭くしている
ごく少数の症例が比較的短い年数でしか評価されていないため、どの治療選択肢に対しても批判は控えるべきである
●文献
●質疑応答

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