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開催日: 2017年4月4日(火)

外科学セミナー2017

犬猫の上部気道手術
最近の傾向と文献のレビュー

講師

Clare R. Gregory DVM, DACVS
Emeritus Professor, Department of Surgical and Radiological Sciences, School of Veterinary Medicine, University of California, Davis, CA, USA Staff Surgeon, PetCare Veterinary Hospital, Santa Rosa, CA, USA

関連ハンドアウト(参考資料)

  • 犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー(ご講演資料)

オンデマンド

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.01
  • 一般外科/麻酔科

・鼻:解剖学
 鼻腔は鼻孔にはじまり、後鼻孔で終わる
 鼻中隔によって長軸方向に2つの鼻窩に分かれる
 鼻平面は色素沈着しており、無毛で、鼻の最も吻側表面に存在する
 上唇溝は鼻平面を正中矢状方向に走る外面の襞である
 鼻の開口部は外鼻孔あるいは鼻孔と呼ばれ、鼻前庭内に開口している
 外鼻は対になった対称性の軟骨の枠組みによって支持されている
 吻側の正中矢状平面では軟骨性の中隔が左右の鼻窩を隔てている
 尾側では、この軟骨性の境界が骨性の中隔になっている
 対になった背外側鼻軟骨は、鼻翼を支持し形作っている
 腹外側鼻軟骨は中隔軟骨と連続しており、鼻前庭の床および外側壁を形成している
 副鼻軟骨は鼻の正中外側にあるスリットの腹側面を形作っている
 外鼻の軟骨は複数の靭帯により支持されている
 背側鼻靭帯は、背外側鼻軟骨への鼻骨の骨性開口部で鼻骨背側正中線に結合している
 外側の支持は、対になった外側鼻靭帯が行っている
 翼ヒダは腹鼻甲介が吻側に伸展したものである
 鼻涙管の吻側開口部もまた、鼻腔の吻側面に位置している
 口唇、鼻、マズルに付随する筋肉は、軟骨の枠組み上に停止している
 鼻唇挙筋は前頭骨および上顎骨上のマズルの背側正中線に起始し、上唇および鼻に停止する
 これは扁平な薄い筋肉で皮膚の直下にあり、外鼻孔径を拡大させ上唇を挙上させる働きをする
 口輪筋は口唇の主となる筋肉であるが、これはまた外鼻の腹側への牽引も行い、それによって下方を嗅ぐことが可能となる
 鼻腔内では、背鼻甲介およびより大型の腹鼻甲介が、空気の通路の輪郭を形成している
 空気の通路は、背、中、腹、および総鼻道に分かれている
 吻側の翼ヒダは腹鼻甲介が球状に伸展したものであり、鼻翼と融合している
 尾側および腹側の鼻腔内では、篩骨から伸展した篩骨甲介が渦を巻いて篩骨迷路が形成されている
 3つの副鼻腔
  上顎陥凹は最後前臼歯と第一臼歯のレベルの窩の外側面内にある
  蝶形骨洞は蝶形骨内に存在し、篩骨甲介の一部を収容している
  前頭洞は頭蓋骨の背側面にあり、前前頭洞、内側前頭洞、外側前頭洞の部分に分かれている
  これらの前頭洞は鼻前頭洞開口部を通じて鼻窩に連結しており、篩骨甲介はそこを通って伸展している
・鼻咽頭:解剖学
 鼻咽頭は、硬口蓋および軟口蓋の背側部分の咽頭である
 後鼻孔は鼻咽道の吻側部分である
 これらは鼻咽頭の尾側境界とされる
 鼻咽頭の腹側、背側、および外側壁は、硬口蓋、鋤骨、および口蓋骨から成る
 左右の耳管は、翼状骨尾側縁直後のスリット様の開口部を通じて外側鼻咽頭内へ開口している
・生理学
 犬猫は、休息時には鼻で呼吸している
 吸気は、鼻粘膜の吻側部分で加温および加湿される
  この機構により鼻粘膜は冷却される
 運動時、あるいは環境温度が高い時には、鼻粘膜の血管拡張により、熱と湿度の交換が増強される
 激しい運動時あるいは高温の場合、犬や猫(犬ほどではない)は、口腔粘膜表面を利用した気化冷却を増加させるために、口呼吸(パンティング)に切り替える
 尾背側部分の鼻粘膜は、主に嗅覚のためのものである
  特に犬は、狩猟に参加している時には通常時の吸気よりも速い嗅ぎかたをする
  この短時間で爆発的な空気の急速な流入は鼻腔内に乱気流を生じ、これが空気を背鼻道内へ向かわせ、コンスタントに新しい嗅覚情報を提供すると考えられている
 鼻平面の湿潤した外観は、主に対になった外側鼻腺からの分泌物の機能によるものである
  これらの分泌を刺激するものや分泌物の機能は不明である
  温かい温度および犬が食物に惹きつけられている場合に分泌が刺激される
  これらの液体にはIgAも含まれており、防衛機能が示唆される
  液体の蒸発は冷却の役割を果たすと考えられる
 犬猫の副鼻腔の役割は不明である
  可能性のある機能には、吸気の加温と加湿が含まれる
  免疫活性
  鳴き声の共鳴
  顔の形状への寄与
  ヒトでは、前頭洞が有意な濃度の一酸化窒素を産生することが知られている
  これは吸気に対して抗菌的な効果を持つと考えられている

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.02
  • 一般外科/麻酔科

・鼻咽頭の疾患
 臨床症状
  鼻汁
   粘度、色、部位は様々である
   性状と最終的な診断との相関は弱い
  くしゃみやリバース・スニーズ
  鼾声呼吸(吸気性のいびき)
  鼻出血
 猫
  鼾声呼吸と発声の変化は、鼻咽頭の疾患に伴って生じるほうが多い
  鼻の疾患単独ではくしゃみと鼻汁を生じる
  犬は気流の閉塞をパンティングでやわらげる:猫は滅多にパンティングをしない
・鼻咽頭の疾患
  幾つかの研究では、鼻出血あるいは片側性の鼻汁は、腫瘍の最終診断を示唆するものであった
 猫
  鼻汁と同時に眼脂が認められる可能性がある
  犬猫共に、鼻咽頭の疾患で外鼻の変形が認められることがある
  一方あるいは両方の外鼻孔からの気流が減少あるいは消失することがあり、これは腫瘤あるいは液体による鼻腔内通路の閉塞を示唆する
  口腔内検査により咽頭の腫瘤が発見されることがある;硬口蓋/軟口蓋の変位、びらん、潰瘍形成、あるいは歯科疾患
  全身麻酔下での実施がベストである
・全身麻酔下での鼻咽頭の検査
 触診で占拠性病変が発見できることがある
 軟口蓋を吻側に牽引すると鼻咽頭腔の観察ができる
  しばしば子宮吊り出し鉤や他のリトラクターを使って行われる
  鼻咽頭の中央から尾側にある炎症性ポリープおよび他の腫瘤を除去するために充分な露出
  軟口蓋に割をいれると露出が増加する
  内視鏡装置を用いると鼻咽頭全体の観察が容易になる
・鼻咽頭疾患の臨床症状の鑑別診断
  腫瘍 – 癌腫、リンパ腫、その他
  炎症性ポリープ
  真菌感染症
  ウィルスおよび細菌感染症
  異物
  歯科疾患
  病歴および臨床的な特徴は著しく重複している
  確定診断のためには、病理組織学的検査を併せた画像診断あるいは内視鏡検査が必要である
・鼻咽頭の疾患
  鼻腔のアスペルギルス症は大型犬に多い
  炎症性ポリープは、古典的には若齢猫に関連している
  近年の報告では、炎症性ポリープの猫群の平均年齢は5歳と報告されている
  最高で10歳の猫にも炎症性ポリープが診断されている
・鼻咽頭の画像診断検査
 鼻のX線検査は、患者のポジショニングが可能となるよう、全身麻酔下で実施すべきである
 下顎骨の重複を避けるため、口腔内背腹方向像および開口腹背方向像を撮影する
  開口腹背方向像では篩板が観察できる
 前頭洞の吻尾側方向像を用いると、前頭洞を個々に評価することができる
 腫瘍の診断に対して最も予測的価値があるX線学的な基準は、周囲の骨破壊像である
  涙骨、口蓋骨、上顎骨
 X線写真と比較して、横断画像は鼻の複雑な構造に関するより詳細な情報をもたらす
  おそらく、鼻炎と腫瘍の鑑別は横断画像の方が優れている
 この目的のためにこれまではCTが多用されてきた;MRの利用が増えてきた
 CTは、鼻の腫瘍の診断が確定した犬で、鼻の腫瘍に関連した変化の検出の点でX線検査よりも優れている
 CTやMRで認められる鼻腔内の腫瘤病変
  鼻腔内腫瘍
  真菌性鼻炎 – 腫瘤に特徴的な空洞状の所見がある
 最終診断が炎症性鼻炎の犬でも、横断画像上に明らかな腫瘤が認められることがある
  造影後の画像シーケンスでは増強されないものが多い
 犬猫の鼻の腫瘍性疾患では、鋤骨および/あるいは鼻周囲の骨の破壊を伴う鼻腔内腫瘤が認められる
 破壊を生じない両側性の鼻粘膜の肥厚および液体貯留の存在は、炎症性鼻炎の最終診断に関連している
  炎症性鼻炎の猫の1/3では、外耳炎がない状態で鼓室胞に滲出液が認められている
 猫では、中隔の変位および洞の不対称は正常範囲内であることがある
  横断画像上に認められたこのような変動を疾患と解釈してはならない
   中隔あるいは篩板の溶解は、犬では腫瘍を示唆するものであるが、猫の腫瘍ではそうとは限らない
・鼻鏡検査と鼻咽頭鏡検査
 内視鏡では、鼻腔、鼻咽頭、および時には洞を直接観察することができる
 細胞学的検査、培養、および組織病理学的検査のためのサンプルを採材できる
 鼻咽頭と後鼻孔を観察するには、軟性内視鏡を反転させるか、あるいは軟口蓋を牽引する器具とその領域を観察する歯鏡とを用いる
 鼻腔内部は硬性あるいは軟性の鼻鏡を用いて検査する
 反転させた内視鏡での鼻咽頭と後鼻孔の検査を鼻鏡検査の前に実施すると、鼻鏡検査中に生じる出血、粘液、あるいはフラッシュに使用した液体による視野の障害を避けることができる
 反転させた内視鏡を用いた鼻咽頭の画像からは、診断的な情報および、鼻鏡検査単独では得られない治療のためのアクセスが得られることが示されている
 反転させた内視鏡の視野で観察とバイオプシーができる腫瘤は、鼻鏡検査単独の場合、通常は見逃されてしまう
 内視鏡を反転させるアプローチは、鼻鏡によるアプローチではアクセスできない鼻咽頭内の異物を回収するためにも用いることができる
 鼻鏡を用いて観察された粘膜の異常の存在とその重症度はいずれも、組織学的な異常の存在やその重症度を予測するものではない
 鼻鏡検査は、犬の腫瘍性腫瘤や真菌性の肉芽腫を視覚的に検出するために用いられることがある
  猫ではより困難である
 鼻腔内腫瘍の外観は多くの場合、閉塞性、灰白〜白色で表面に光沢のある軟部組織腫瘤であり、鼻鏡やバイオプシー用の器具の接触によって容易に表面から出血する
 細胞学的検査、培養、あるいは組織病理検査に提出するための材料は、スワブ、ブラシ、あるいはバイオプシー鉗子で採材できる
 比較分析のため、左右の鼻腔内部から粘膜を採材することが推奨される

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.03
  • 一般外科/麻酔科

・鼻平面の疾患
 鼻平面は多数の疾患や病変に罹患する
 臨床症状には、潰瘍形成、鼻汁、腫瘤病変、および色素脱が含まれる
 多くの疾患が類似した病変を呈するため、診断には罹患部位のバイオプシーが必要である
 内科的に管理する先天性あるいは後天性の鼻平面疾患が複数記載されている
  ラブラドール・レトリバーの遺伝性鼻不全角化症
  鼻平面病変が出現する可能性のある自己免疫疾患
   円板状エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、
   天疱瘡群
 鼻平面の他の疾患には以下が含まれる:
  ロットワイラーおよびドーペルマン・ピンシャーの特発性色素脱
   ブドウ膜炎を伴うことがある
  鼻平面の色素が少なく、太陽紫外線への暴露が多い動物は、日光皮膚炎となる恐れがあり、これは扁平上皮癌へと進行する可能性がある
 特に鼻平面に罹患する慢性、孤立性の円形潰瘍として、皮膚動脈炎が少数の犬で報告されている
 その他の鼻平面上の病変は、アレルギー性接触性皮膚炎(通常はプラスチックの食器による)、血管炎・寒冷凝集素病、特発性無菌性肉芽腫形成、皮膚組織球種、あるいはほくろ
・鼻平面の腫瘍
 外科的に対処されることが最も多い鼻平面の疾患は腫瘍である
 鼻平面の腫瘍は犬よりも猫に多い
  鼻平面上に発生する悪性腫瘍の型では扁平上皮癌が最も多い
 鼻平面上に発生するそれ以外の腫瘍には、リンパ腫、悪性組織球症、線維肉腫、悪性黒色腫、リンパ球様肉芽腫症、基底細胞癌、線維腫、肥満細胞腫、血管腫、血管肉腫、および好酸球性肉芽腫が含まれる
・扁平上皮癌
 局所侵襲性の悪性腫瘍であり、周囲の軟部組織および骨に侵入する
 太陽光への暴露が、犬猫の正常な扁平上皮細胞の悪性形質転換に寄与している可能性がある
 乳頭腫ウィルスもまた、細胞の腫瘍細胞への形質転換に寄与している可能性がある
 高齢の白色猫は、鼻平面、耳介、および隣接した皮膚に腫瘍を発現する危険性が高いようである
 太陽光の照射は、犬の血管腫と血管肉腫の病理発生にも寄与している可能性がある
 太陽光の下で長時間過ごす体色の薄い犬猫は、これらの悪性腫瘍を生じる傾向がある;予防には飼い主教育が重要である
・扁平上皮癌治療
 最良の治療法は、病変の外科的な完全切除である
 外科的治療後の生存期間について、少数の群で複数報告されている
  鼻平面の扁平上皮癌が存在する犬
   外科手術単独での生存期間の中央値は12.5週間
   放射線治療単独での生存期間の中央値は26週間
  鼻平面の扁平上皮癌が存在する猫
   生存期間の中央値は12ヶ月
 生存期間は短く、これはこの腫瘍がしばしば非常に侵襲性が強く、充分なサージカル・マージンの確保が困難なことが多いためである;特に猫がそうである
 扁平上皮癌の完全切除は難しく、局所再発が一般的であるため
  多くは補助療法による治療が必要となる
   鼻平面の扁平上皮癌の治療には、凍結療法および外部照射放射線療法が用いられている
   ある程度成功している他の治療モダリティには以下が含まれる
    光力学療法、プロトン照射、ストロンチウム-90 プレシオセラピー、カルボプラチンの腫瘍内投与
   これらのモダリティは、小型で表在性の病変が存在する動物に最も適している

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.04
  • 一般外科/麻酔科

・外鼻孔狭窄症
  外鼻孔狭窄症は、犬の短頭種症候群の一要素として認められることが最も多い
  最も報告が多い犬種は、イングリッシュ・ブルドッグ、パグ、ボストン・テリア、ペキニーズ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルである
  短頭種の猫、特にペルシャおよびヒマラヤンもまた、外鼻孔狭窄症に罹患することがある
  外鼻孔狭窄症の犬では、背外側鼻軟骨が付随する上皮と粘膜を伴って軸方向に変位することによって外鼻孔の閉塞が生じる
  外鼻孔狭窄症は著しい上部気道閉塞を生じ、これは短頭種気道症候群の他の要素に先行し、また、それを推進させると推論されている
  上部気道の閉塞を乗り越え、換気のために充分な量の空気を移動させるためには、下部気道および喉頭の腔内にかなりの陰圧を作り出さなければならない
  この管腔内の著しい陰圧は、喉頭および気管の軟部組織と軟骨に超生理学的なストレスを生じる
   これらの外力により組織の浮腫や喉頭軟骨の虚脱が生じ、空気の流れがさらに低下する
   外鼻孔狭窄症の外科的な修正は上部気道閉塞を有意に軽減でき、非常に若い時期に実施すれば、喉頭虚脱を含む他の短頭種症候群の要素の進行を防止することができる
・異常あるいは変形した鼻甲介
  外鼻孔狭窄症に加え、鼻腔内の狭窄症あるいは異常な鼻甲介の発達による気道の閉塞もまた、短頭種症候群に関連する上部気道閉塞に重大な役割を果たすと考えられる
  上部気道閉塞が存在する短頭種の犬の鼻の横断画像を用いて調査したところ、評価した全ての短頭種の犬に異常な鼻甲介が認められた
  異常な鼻甲介は吻側あるいは尾側に生じ、異常な分枝と疎なラメラ構造を示す傾向があった
  パグでの発生が多いと考えられる
  複数の研究で、異常な鼻甲介が鼻腔内部の閉塞に寄与し、短頭種の上部気道閉塞を悪化させることが示唆されている
・鼻と洞の腫瘍
 小動物の鼻および鼻咽頭疾患の原因として多い
 慢性鼻疾患の犬の15% - 54%、猫の 29% - 70%で報告されている
 病歴、身体検査、および画像診断所見は、他の鼻疾患と同じ場合がある
 鼻腔外にまで伸展する侵襲性の強い溶解性病変を伴う片側性の出血性鼻汁は、腫瘍を示唆する
 前頭洞への進展は腫瘍を示唆することがある
 猫では、鼻の腫瘍で最も多い型はリンパ腫であると報告されている
 リンパ腫はしばしば鼻と鼻咽頭に限局しているが、45%までの猫では多臓器に罹患している可能性がある
  多剤併用化学療法で治療した場合の平均生存期間は98日であった
 猫の鼻で診断される他の腫瘍には、腺癌、扁平上皮癌、線維肉腫、および未分化肉腫などがある
 犬の場合、鼻の腫瘍はほぼ全てが悪性である
  最も多い腫瘍の型は腺癌である
 診断時の年齢の中央値は約10歳である
 中型から大型犬の罹患が最も多い
 犬の鼻の腫瘍は大半が悪性であるが、転移率は低い
 転移は、領域リンパ節および肺に起こる
 化学療法は、犬の鼻の腫瘍に対してある程度の細胞数減少効果がある
 減量手術では、鼻腔内腫瘍の犬の生存期間の改善は認められていない
 鼻腔内腫瘍の犬に対する第一選択として放射線治療が推奨される
 根治を目的とした放射線治療後の生存期間の中央値は、外科手術の有無にかかわらず、8 - 19か月の範囲である
 近年の研究では、放射線治療後に摘出手術を受けた犬では、放射線治療単独の治療を受けた犬よりも生存期間が長かった
 片側性疾患の犬、あるいは鼻甲骨を超える骨溶解が存在しない犬が、根治目的の放射線治療を受けた場合、生存期間の中央値は23.4ヶ月であった
 篩板が罹患している犬の生存期間はより短かった;平均6.7ヶ月であった
 予後指標を改善するために行われたステージ分類スキームの改正では、治療プロトコールあるいは生存時間への更なる見識は得られなかった
 猫と比較すると犬ではより多様な腫瘍が認められている
  様々な腺癌、扁平上皮癌
  骨肉腫、軟骨肉腫
  円形細胞腫、肥満細胞腫
  可移植性性器腫瘍
 一部の報告では、犬は肉腫の方が癌腫よりも良好な予後に関連することを示唆している
・鼻腔内異物
 犬猫の鼻腔内に認められる異物は、一般に植物性のものである
 鼻腔内異物症例のX線学的所見はしばしば非特異的で、鼻炎を示唆するのみである
 時にX線不透過性の物質が認められることがある
 軟性内視鏡を反転させて用いた後鼻孔の画像から、鼻腔又は鼻咽頭内の異物の診断および回収、あるいは、見えない異物を取り出すための鼻腔内のフラッシュに役立つことがある
 硬性鏡は鼻腔内吻側の物質を回収するために利用できる

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.05
  • 一般外科/麻酔科

・鼻咽頭の疾患
 鼻咽頭の疾患は犬猫に多い
 これには、異物、良性あるいは悪性腫瘍、炎症性ポリープ、真菌性肉芽腫、嚢胞、後鼻孔閉鎖症、鼻咽頭の狭窄症が含まれる
 犬の鼻咽頭疾患の原因として最も多いのは後鼻孔の腫瘤である
 ある研究では、鼻咽頭疾患が存在する犬の54%に腫瘍が認められた
 猫でもまた、腫瘤が鼻咽頭疾患の原因となることが多い
 49%の猫にリンパ腫が、28%の猫に炎症性ポリープが存在する
 鼻咽頭の腫瘍性疾患は、より高齢の動物に発生する傾向がある
 内視鏡あるいは軟口蓋を正中切開する腹側からの外科的アプローチ法により、腫瘤の除去が達成できる
.軟口蓋切開
 軟口蓋の正中線上を切開する。切開部の閉鎖は2層行う。
 鼻粘膜を吸収糸(モノクリル)の単純結節縫合で閉鎖する
 口腔粘膜および筋層は、吸収糸の単純連続縫合で閉鎖する
・鼻咽頭ポリープ
 発生が最も多いのは猫だが、犬にも生じることがある
 炎症性ポリープは良性病変であり、耳管、中耳、あるいは鼻咽頭の粘膜から生じる
 炎症性ポリープは外耳道にもよく認められ、どちらの部位にも発生し得る
 炎症性ポリープの原因は不明である
 先天性の原因および、カリシウイルスとヘルペスウィルスを含む感染性の原因が示唆されているが、証明はされていない
 炎症性ポリープが存在する猫に関する近年の再評価では、来院時点のX線検査あるいはCTスキャンの55%に鼓室胞の変化の所見が存在した
・鼻咽頭ポリープの治療
 腹側鼓室胞骨切り術を併用する、あるいはしない、牽引除去術
 鼻咽頭ポリープは牽引除去術後の再発はまれである
 耳管のポリープでは牽引除去術後の再発がより多い
 臨床的に、あるいは画像上で、鼻咽頭ポリープと共に中耳疾患の所見がある猫では、再発が減り、中耳疾患が治療できることから、腹側鼓室胞骨切り術が有用である
 耳道全体/鼻咽頭に疾患が存在する猫の一部では、ポリープの再成長をコントロールするために、外耳道切除術と鼓室胞骨切り術が必要となる
・牽引除去術による炎症性ポリープの切除
 患者を全身麻酔とし、挿管する
 仰臥位
 ポリープは吻側に牽引された軟口蓋の背側に蝕知される;必要であれば口蓋を正中線上で切開する
 ポリープを鉗子で把持する;第二の器具を茎の部分に装着するよう試みる
 腫瘤が取れるまで優しく腹側に牽引する
 牽引により、ホルネル症候群や前庭症状が生じる可能性がある

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.06
  • 一般外科/麻酔科

・鼻平面切除術
 扁平上皮癌の完全切除術は、根治を左右する可能性が最も高い治療法である
  完全なマージンを得るのが難しいことがある
 鼻平面切除術は重大な美容上の変化をもたらすことから、飼い主のカウンセリングが極めて重要である
  特に家族の中の幼い子供は、動揺しやすい可能性がある
 鼻平面の切除を考慮する前に、腫瘍の完全なステージ分類を行うべきである
  病変のバイオプシー
  領域リンパ節の吸引
  三方向の胸部X線写真あるいは胸部と腹部のCT画像診断
  CTが実施されない場合、転移性疾患捜索のための腹部超音波画像診断検査
 疾患全体の伸展範囲とマージンの必要分を正しく知るため、手術に先立ってCTあるいはMR画像診断を実施するべきである
 眼窩下孔から眼窩下神経が出てきた部位で術前にブロックを行うと、手術時の麻酔と鎮痛が増強される
 この領域の血管分布から、術中の血液喪失が大量となる可能性がある
  必要に応じて血管内輸液および血液製剤が利用できるようにしておく
 腫瘍が小さく、表在性で、尾側への伸展がなければ、鼻平面の部分切除が可能である
 鼻平面中央部の表在性病変の切除には、外鼻孔腹側の溝領域から両側の横転皮弁を作成することができる
 皮弁の基部は軸側にとり、切除術後に残った空間を埋めるよう背側へ回転させる
 鼻平面の部分切除術を、鼻翼および口唇の前進皮弁で閉鎖する
・鼻平面の完全切除術
 腫瘍の深さによっては、切歯骨および、鼻骨や上顎骨の吻側面を除去する必要がある
 対になった鼻背側および鼻外側動脈、大口蓋動脈からの出血が生じると考えられる
 骨の切除に先立ち、周囲を取り巻く軟部組織を切除するべきである
 オシレーティングソーを利用すると骨の切除が最も良く実施できる
 出血はしばしば骨切り術が完了するまでコントロールできない
  注意深い計画と、血液製剤が利用できることが重要である
 必要に応じて歯根を除去する
・鼻平面の完全切除術の閉鎖
 皮膚に巾着縫合をかけ、鼻の開口部を1つ作成する
  皮膚と鼻粘膜の間の二次治癒は粘膜皮膚の並置に依存していた
 口唇および顔面の前進皮弁
  口唇の皮弁を中央で合わせ、顔面の前進皮弁は鼻平面を覆うように進める

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.07
  • 一般外科/麻酔科

・猫の鼻平面の扁平上皮癌
・鼻平面の完全切除術の閉鎖
 McAnulty J and Pavletic MMより、口唇粘膜反転法
  鼻腔を覆う口唇粘膜の囲いを作成する
  口唇を使って楕円形の開口部を作り、鼻粘膜を保護する
・口唇粘膜反転法
 口唇皮弁の粘膜を鼻軟骨と鼻粘膜に縫合する
 粘膜に割を入れ、皮弁を折りたたみ、鼻腔と口腔を分けるように粘膜を縫合する
 左右の皮弁の辺縁から一部を除去して皮弁を鼻の開口部の下で併せる
 口唇皮弁の辺縁を縫い合わせることにより、鼻腔を粘膜-粘膜縫合で閉じ、また、鼻腔と口腔とを仕切ることができる
・外鼻孔狭窄症の外科的な修正
 外鼻孔狭窄症の外科的な修正法は複数記載されている
 鼻組織を除去するため、メス、レーザー、あるいは電気外科手術が用いられている
 レーザーや電気外科手術の過剰な使用は、組織の広範な損傷、治癒遅延、およびを脱色した瘢痕を生じる可能性がある
 患者は伏せの状態とし、鼻の開口部が同一平面上に来るようにする
 メスを用いた切開は急速かつ重大な出血を招き、これは圧迫により容易にコントロール可能で、縫合糸をかけた後にはすぐに止まる
 4-0から5-0の迅速に吸収される縫合糸の単純結節縫合で切開部を閉鎖する
 このタイプの縫合を行うと、鎮静が必要となるような抜糸が不要となる
・腹側楔形切除術
 11番のメス刃
 翼ヒダを完全な楔状に切除するため、鼻骨/切歯骨に向けて切開する
 楔状のブロックを虹彩鋏で切除する
 4-0から5-0の吸収糸を用い、尾側から吻側に向かって結節縫合で閉鎖する
・水平楔形切除術
 11番のメス刃
 翼ヒダの軟骨が尾側に伸展している部分に向けて切開する
 楔状のブロックを虹彩鋏で切除する
 4-0から5-0の吸収糸を用い、結節縫合で閉鎖する
 得られる開口は腹側楔形切除術ほど広くはない
  Monet E. Textbook of Small Animal Surgery

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.08
  • 一般外科/麻酔科

・異常な、あるいは変形した、鼻甲骨あるいは鼻甲介に対する手術
 鼻甲介による鼻腔内の狭窄を治療する方法として、レーザー補助による鼻甲介切除術が記載されている
 術前の横断画像および鼻鏡検査を用い、ダイオードレーザーで閉塞している鼻甲介を除去し、腹鼻道を拡大する
 初期の報告では、短頭種の犬で鼻腔内気道抵抗が約50%低下することが示された
・文献の再評価:短頭種症候群に対する新しいアプローチ法 1. 解剖学的な鼻腔内気道閉塞の評価
 Oechtering GU, Pohl S, Schlueter C et al. Vet Surg 45: 165, 2016
 目的:3種類の短頭犬種で、コンピュータ断層撮影法と鼻鏡検査を用いて、鼻腔内の解剖の異常による鼻道閉塞について評価すること
  供試動物:短頭種症候群による重度の呼吸困難が存在する短頭種の犬132頭(パグ66頭、フレンチ・ブルドッグ55頭、イングリッシュ・ブルドッグ11頭)
  方法:コンピュータ断層撮影法および吻側と尾側の鼻鏡検査を実施し、鼻腔内の閉塞を評価した
 結果
  全ての犬に、鼻腔内気道を閉塞する異常な鼻甲介の成長が存在していた
  パグには吻側の異常な鼻甲介が多かった(90.9%)が、フレンチ(56.4%)およびイングリッシュ(36.4%)ブルドッグはそれほど多くなかった
  鼻咽頭を閉塞する尾側の異常な鼻甲介は、全ての犬種に多かった(66.7%)
  鼻中隔の変位はパグではほぼ一貫して認められる所見であった(98.5%)が、ブルドッグではそれほど多くなかった
  閉塞を生じている鼻甲介は複数のポイントで粘膜に接しており、これが鼻腔内気道の閉塞に寄与していた
  91.7%の犬では、鼻甲介間および鼻甲介内での粘膜の接触が顕著であった
・ジャーマン・シェパード(A)およびパグ(B)のCT画像
 P1:パグの極めて小さな鼻腔および変位した鼻中隔に注目
 P2:パグでは空間がないため、尾側の鼻甲介は尾側および腹側に変位し、鼻咽頭開口部を閉塞している
 パグには前頭洞が認められない
・ジャーマン・シェパード(A)とパグ(B)の尾側の鼻鏡検査
 ジャーマン・シェパードでは、左右の鼻咽道が開口しており、鼻中隔が観察できる
 パグでは、尾側に成長した異常な鼻甲介により、左右の鼻咽頭開口部が塞がれている
・尾側の異常な鼻甲介が尾側鼻咽道内へと後方に広がっている6頭の犬のCT画像;パグ、イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ
 尾側の異常な鼻甲介の多様性を示すものである。パグの鼻腔がどれほど小さいかに注目
・文献の再評価:短頭種症候群に対する新しいアプローチ法 1. 解剖学的な鼻腔内気道閉塞の評価
 まとめ
  頭の短い形状のための選択交配は、鼻腔内の構造の成長が異常となり奇形が生じるほどまで鼻腔のサイズを減少させる
  その結果、空気を通す空間が閉塞する
  短頭犬種の鼻腔内気道閉塞は肺での換気を傷害し、また、鼻の体温調節機能を損なうことから、これらの犬の運動および暑熱不耐性に寄与すると考えられる
  鼻腔内閉塞への対処の失宜は、従来の、軟口蓋過長、喉頭小嚢の反転、および外鼻孔狭窄症の手術後に治療的な成功が得られないことへの説明となると考えられる

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.09
  • 一般外科/麻酔科

・文献の再評価:短頭種症候群に対する新しいアプローチ法 2. レーザー補助による鼻甲介切除術(LATE)
 Oechtering GU, Pohl S, Schlueter C et al. Vet Surg 45:173, 2016
  目的:短頭種の犬の鼻腔内の気道の通過性改善を目的とした、レーザー補助により閉塞した鼻甲介組織を除去する、インターベンションに基づいた新しい手術手技を紹介すること
  目的:コンピュータ断層撮影法および鼻鏡検査を用いて、短期および長期的な結果を確立すること
  研究デザイン:前向き臨床研究
  供試動物:短頭種症候群による重度の呼吸困難治療のために紹介されてきた短頭種の犬(n=158;パグ70頭、フレンチ・ブルドッグ77頭、イングリッシュ・ブルドッグ11頭)
  方法:鼻腔内閉塞を評価するため、コンピュータ断層撮影法および吻側と尾側の鼻腔鏡検査を実施した
  方法:多段階手術の一環として、ダイオードレーザーを用いた、レーザー補助による鼻甲介切除術を実施した
  方法:気道閉塞の原因となっていた鼻甲介を除去した
  方法:必要に応じて、両側の外鼻孔の拡張術、両側の扁桃摘出術、軟口蓋の減量術と組み合わせた口蓋垂切除術、および、反転した喉頭小嚢の切除術も行った
  レーザー鼻甲介切除術は、腹鼻甲介の切除から開始する
  レーザーによる鼻甲介切除術は、腹鼻甲介の切除から開始する
  最初の切開線は、腹鼻甲介の基部の層を上顎骨体との外側の接着部に沿ってたどる
  尾側では接着部が二層構造になり、輪郭がわかりづらくなる
  視野を良好にするためには、血液の吸引が必要不可欠である
  レーザー鼻甲介切除術では、次に、腹鼻甲介と連続していない(篩骨甲介の延長)吻側に異常に成長した鼻甲介(RAT)を切除する
  パグの、特に鼻中隔の変位が顕著なものでは、中隔の凹面上の中鼻甲介から伸展したRATがしばしばこの空間を満たしている
  この位置のRATの多くは腹側に変位しており、腹鼻道をブロックしている
  レーザーによる鼻甲介切除術の最終ステップは、異常に成長した尾側の鼻甲介(CAT)の切除である
  この部分でのLATE手技の目的は、確実に鼻咽道の内腔にCATが無い状態とすることであった
  CATは腹鼻甲介あるいは篩骨甲介のいずれかから生じる可能性がある
  篩骨甲介から生じていた場合、CATはその外観の背側のレベルで注意深く切除する
 結果:
  全ての犬で、LATEにより閉塞を生じていた鼻甲介の部分は安全かつ効果的に除去され、開通した鼻気道が形成された
  この手技の合併症には以下が含まれる:
   32.3%で術中の一過性の出血
   一時的なタンポナーデが必要となった犬は1.3%のみであった
   15.8%の犬では、6ヶ月後、鼻甲介の再成長により再閉塞した組織の切除術が必要であった;パグ1頭、フレンチ・ブルドッグ24頭
   全体での死亡率は2.4%であった;1.6%は手術あるいは周術期の合併症に関連していた
 まとめ:
  LATEは鼻腔内閉塞が存在する短頭種の犬に開通した鼻気道を作成するための効果的な方法である
  レーザー光は目に見えず、特に内視鏡手術中には周囲組織に重大な付随的損傷を生じる可能性がある
  鼻腔内では、この問題が、ファイバー先端の問題や、不適切な使用、例えば、選択した出力が強すぎる、非接触照射モードで組織までの距離をとりすぎたなどが原因で生じる可能性がある
  著者らは、著しく吻側にレーザーを用いた後、外鼻孔が完全に癒着し閉鎖した紹介症例を4例治療している
  レーザーの誤使用により、1症例では鼻中隔が壊死し、別な症例では穿孔していた

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.10
  • 一般外科/麻酔科

・文献の再評価:短頭種の鼻腔内:レーザー補助による鼻甲介切除術後の鼻甲介の再成長と粘膜の接触ポイント
 Schuenermann R, Oechtering G JAAHA 50:4 237-46, 2014
 目的:短頭種の犬に対するLATE後の鼻甲介の再成長および、再成長した鼻甲介と粘膜の接触について分析すること
 供試動物:鼻甲介による閉塞に対してLATEを実施した短頭種の犬80頭(パグ41頭、フレンチ・ブルドッグ39頭)を、手術の7日および6ヶ月後に内視鏡で評価した
 方法:Oechteringらにより記載されたものと同じLATE手技であり、口蓋垂切除術、喉頭小嚢切除術、および、外鼻孔狭窄症に対する鼻形成術を含む
 解剖学的特記:中鼻甲介(CNM)、背鼻甲介(CND)、内鼻甲介IIIおよびIVの起始は篩骨および鼻甲骨であると記載されている
 結果:
  6ヶ月時点では、フレンチ・ブルドッグの96%とパグの65%の鼻腔内で、鼻甲介の再成長が認められた
  17%のフレンチ・ブルドッグと3%のパグでは、閉塞性の再成長のため補正手術が必要であった;臨床症状には鼾声呼吸と暑熱不耐性が含まれた
  鼻甲介の再成長後には、閉塞性鼻甲介が鼻腔内の対側の壁に接触しているポイントの平均数は、初回手術前のフレンチ・ブルドッグ3、パグ1.7から、フレンチ・ブルドッグ1.2、パグ0.2へと減少した
  術後の外鼻孔の再虚脱は、接触ポイントの再発に有意に影響していた
 まとめ:
  LATEは鼻道を閉塞する鼻甲介と粘膜の接触が原因で生じる鼻腔内閉塞を治療するための効果的な方法である
  通常は鼻甲介の再成長が起こるが、新しい鼻甲介ではもともとの鼻甲介と比較して接触ポイントの数が有意に減少することから、閉塞を生じる可能性が低い
  鼻甲介は体温調節などの重要な生理的機能を果たしているため、非閉塞性の再成長は極めて好ましいものである
  根治的な外鼻孔の手術は、外鼻孔を通る気流の増加により供給される剪断応力が増加することから、潜在的に非閉塞的な形状での鼻甲介の再成長を補助する可能性がある

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.11
  • 一般外科/麻酔科

・鼻腔、前頭洞、鼻咽頭の手術
 適応症と周術期の考慮点
  鼻切開術は、良性腫瘤病変、診断未確定の慢性鼻汁、真菌性鼻炎、鼻腔内への歯の転位が存在する患者、鼻腔内腫瘍の補助療法として、あるいは探査とバイオプシーのために用いられている
   最も一般的に遭遇する疾患は、代替的な、より侵襲の少ない画像診断法や治療法で対応できるため、多くの鼻の疾患では鼻切開術が必要となることはない
    副鼻腔の探索、バイオプシー、および治療的な手技(異物除去、抗真菌治療)は、横断画像による診断および鼻鏡検査で最もよく管理できる
 麻酔での考慮点は、外科手術アプローチ法にかかわらず同様である
 出血を予測しておく
  手術に先立ち、凝固試験と赤血球のクロスマッチ試験を実施しておく
  血液製剤が直ちに使えるようにしておく
 犬の鼻腔内手術中の血液喪失を軽減させ、視界を向上させるために、両側の頸動脈の一時的な閉鎖が用いられ成功している
  猫は内頚動脈を欠いており脳の血流がの安定性が低く、脳の虚血性損傷の危険性が増加することから、この方法は禁忌である
 全ての動物に対してカフ付きの気管チューブを用い、血液や液体を吸入しないよう気道を保護するべきである
 喉頭にもガーゼスポンジを詰めて、組織や液体が気道内に侵入するのを防ぐべきである
  Throat pillow
・鼻腔への外科手術アプローチ法
 最も一般的に用いられるアプローチ法は、背側、尾腹側、および吻側腹側アプローチである
 洞および鼻前頭洞開口部を最も完全に露出できるのは、背側アプローチ法である
 鼻骨および前頭骨に作成した骨フラップは、骨の質や、その部分の固定がどの程度可能かによって装着してもしなくともよい
  放射線治療を計画している場合には、骨の壊死および/あるいは感染の合併症を防ぐために骨フラップは用いない
  骨フラップを装着する場合、骨フラップの辺縁周囲に前もって穴をドリリングしておき、その穴に通したワイヤーで固定する
 鼻の摘除術あるいは鼻腔内容除去術とは、鼻腔内構造(鼻甲介)の完全な除去を指す
  頭蓋内への穿孔の恐れがあるため、篩骨甲介は部分除去のみ
 出血を最小限とするためには、迅速で効率的な外科手術手技が必要とされる
  骨キュレット、ロンジュール、サクションで鼻甲介を除去すると同時に、出血量は著しく減少する
  全ての罹患組織と鼻甲介を切除した後、鼻腔の尾側から吻側にまで臍テープガーゼを詰める;ガーゼ端は鼻孔から出す.
  このガーゼは24時間後に、短時間のプロポフォール麻酔を用いて除去する
・鼻腔および洞に対する背側アプローチ法
 背側正中切開;骨を戻さない場合には、術後の骨の成長を促すために、骨から骨膜を剥離する
 必要に応じ、鼻骨および前頭骨に骨フラップを作成する
 骨フラップはワイヤーやポリプロピレン縫合糸で固定する
 私は、皮下気腫を予防するために、鼻腔から皮膚を通してドレーンを装着している

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.12
  • 一般外科/麻酔科

・鼻咽頭への腹側アプローチ法
 患者を仰臥位とし、テープで下顎を最大限に開口させる
 軟口蓋は正中線上で、口腔粘膜、口蓋筋、鼻咽頭粘膜を通る全層切開する
 硬口蓋は露出のために必要であれば、尾側辺縁で部分切除できる
 3-0 - 4-0のモノクリルを用いた三層縫合パターンが推奨される
  小型犬の場合、私は好んで単層で閉鎖する
・鼻腔内尾側に対する腹側アプローチ法
 軟口蓋と硬口蓋の切開部には支持糸あるいはゲルピー鉗子をかけて、閉じないようにする
 更に露出を良好にする必要があれば、口蓋骨(B)を切除する
・鼻腔への腹側アプローチ
 鼻咽頭へのアプローチと同様
 硬口蓋の粘膜骨膜を口蓋骨まで鋭性に縦に分割する
 粘膜骨膜に流入する口蓋動脈を避けるように気を付けながら、外側に向けて骨膜下を挙上する
 バールやロンジュールを用いて硬口蓋の開窓を行う
 閉鎖時に骨は戻さない
 前頭洞の露出は背側アプローチの時ほど良好ではない
 鼻腔に臍帯テープガーゼを詰める
 硬口蓋を覆う粘膜骨膜は2層の吸収糸による単純結節パターンで閉鎖する
 軟口蓋は同様に閉鎖する
・鼻腔への腹側アプローチの長所
 回復がより速い
 手技がより簡単である
 閉鎖したときの見た目がよい
 皮下気腫のリスクが少ない
 術後の痛みが少ない
 若齢の犬猫における鋤骨へのダメージ
  マズルの成長を変える可能性があるため、可能な場合、腹側鼻切開術は避けるべきである
 鼻甲介の切除後に、慢性漿液性鼻漏がよくみられる
  飼い主には術前にこの影響について認識させておく
・質疑応答

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.13
  • 一般外科/麻酔科

・副鼻腔切開術
 鼻腔内の検査と共に行われることが多いが、単独で行うことも出来る
 鼻切開術と共に行う場合、前頭骨の開口部をロンジュール、骨ドリルや骨鋸を用いて尾外側に広げる
 副鼻腔を露出させた後、鼻前頭の開口部を評価する
  これらの開口部は外傷、骨の内部成長によってサイズが減少しているか、腫瘤や感染性落屑物によって閉塞していることがある
 鼻副鼻腔疾患に罹患した動物では、副鼻腔はしばしば粘度の高い、粘液状の落屑物が充満している
 細菌および真菌培養のサンプルと組織のバイオプシーを副鼻腔の検査時に採取する
 洞切開術に最適な部位はCT検査によって決定できる
 洞の位置や大きさは性別、品種および現在起こっている
 病態によって変動する
 組織バイオプシー、細菌および真菌培養、ドレーン設置のための開口部は、トレフィンを用いて作ることが出来る
 全体の検査のためには、副鼻腔を縦または横に横断するように皮膚切開を施す。皮下および骨膜組織を骨から剥離する。
 トレフィン、骨ドリルまたは骨鋸を使って副鼻腔へアクセスする
 骨フラップは元に戻しても戻さなくとも良い;骨膜、皮下組織、皮膚を閉鎖する。必要な場合はドレーンを設置する
・口蓋
 口蓋は鼻道、後鼻孔および鼻咽頭を口腔および中咽頭から分けている
 口蓋の融合不全または硬口蓋や軟口蓋への外傷によって口と鼻または中咽頭と鼻咽頭間の異常な連絡が生じる
 口蓋の手術が行われるのは一般に以下のためである:
  先天性または後天性口蓋欠損の修復
  短頭種の犬における軟口蓋の短縮
  形成されなかったまたは欠損した軟口蓋の形成
  口蓋または上顎の腫瘍の摘出
  鼻腔または鼻咽頭へアクセスする
・解剖学
 硬口蓋は口蓋、上顎、切歯骨と口蓋の粘膜骨膜から構成される
 硬口蓋の重層扁平口腔上皮には6から10対の口蓋ヒダと陥凹部がある
 大口蓋孔は硬口蓋の左右の上顎第4前臼歯の内側に位置している。
  小口蓋孔は大口蓋孔のすぐ尾側に位置している
 大口蓋動脈は大口蓋孔から出て、吻側に走行し硬口蓋に血液を供給している
  いくつかの動脈枝が口蓋裂に入り、一本の動脈枝が上顎の犬歯と第三切歯の間を走行し眼窩下動脈枝と吻合する
 三叉神経の大口蓋枝は大口蓋孔を通って、口蓋の口腔側での知覚神経支配を行っている
・軟口蓋
 軟口蓋は硬口蓋と連続している
 大半の犬では上顎の最後の後臼歯まで伸びている
 口腔重層扁平上皮、口蓋筋および鼻腔の上皮面から構成されている
 軟口蓋への血液供給は主に小口蓋動脈により行われ、筋の外側にある静脈叢によって排出される
 三叉神経は軟口蓋への知覚神経支配を行う
 軟口蓋筋は 口蓋および口蓋帆挙筋と口蓋帆張筋を含む
 口蓋筋は口蓋骨の口蓋突起から軟口蓋の尾側縁まで走行し、収縮すると軟口蓋を短縮させる
 口蓋帆張筋は鼓室胞の吻側にある骨突起から起こり、翼状骨の翼状突起の上を腹側に走行して腱となり口蓋腱膜に終始する
  翼状骨間の軟口蓋を伸張させる
  口蓋の正中に張力をかける
 軟口蓋裂の修正に伴う、縫合線に掛かる張力は翼状骨の翼状突起を骨折させることで軽減できる
  この帆の形をした骨は口蓋の尾背側に触知され、ピンセットや鈍性の骨刀といった鈍性の器具で骨折する
  このことによって口蓋帆張筋の腱部が遊離し、口蓋と縫合線に掛かる横方向の張力を軽減させる
 軟口蓋は嚥下時に2つの機能を持つ
  口蓋の知覚神経刺激は、嚥下を引き起こすメカニズムの一部である
  嚥下時および嘔吐時における咽頭内開口部の閉鎖は、嚥下した食物、液体および吐物が鼻咽頭に入り、その後吸引されないようにする
 軟口蓋の筋肉は、上部気道の陰圧増加と低酸素性高炭酸ガス血症に対する生理的反応にも関わっている
  呼吸活動が増加している期間は軟口蓋の筋肉が硬直し、口蓋を短縮させる
  このことにより気道の抵抗が軽減する

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.14
  • 一般外科/麻酔科

・口蓋 – 口蓋欠損
 口蓋欠損は出生時に存在しているか、生後後天的におこる
 犬猫の先天性口唇および口蓋欠損は遺伝的なものか、子宮内での外傷やストレスの後遺症である可能性がある
 口蓋裂は硬口蓋、軟口蓋、あるいはその両方の全て、または一部に生じる
  軟口蓋の長さが重度に短縮することもある(低形成)
 短頭種は硬口蓋と軟口蓋の両方で欠損が起こるリスクが高い傾向がある
 出生後の口蓋欠損の原因には慢性感染症(歯周病)、外傷、異物の穿孔(銃弾)、腫瘍、外科的および放射線傷害がある
 硬口蓋裂はほとんど常に正中に見られ、通常は正中の軟口蓋裂を伴っている
 硬口蓋裂を伴わない軟口蓋裂は正中に起こることも、片側性に見られることもある
 口蓋欠損がある新生子の患者の管理には通常飼い主による介護が必要である。これには吸引性肺炎を防ぐためのチューブフィーディングが含まれる
 口蓋欠損修正のための処置はほとんどが3−4カ月齢の間に行うことが出来るが、手術を8から12カ月齢まで遅らせると大半の患者で硬口蓋欠損の大きさが縮小する
  欠損部は同じ大きさのままで、患者が成長する
  一部の犬は機能的閉鎖を行い、手術の必要がない
 口鼻瘻は歯周病や抜歯に関連した切歯骨または上顎骨の喪失によって起こる
 硬口蓋の急性正中裂は、交通事故による外傷または高所からの落下(高所落下症候群)のヒストリーのある猫に認められることが多い
 若齢の動物では、電気コードによる傷害によって硬口蓋壊死が起こることが多い
 外傷の全ての症例において、損傷の成熟と口蓋欠損の範囲が分かるまで待ってから修復を始めるのがベストである
 壊死組織のデブリードメンと、原因となっている異物の除去を手術時に行う
 先天性口蓋欠損に関連した臨床症状とヒストリーに含まれるもの
  哺乳のために陰圧にすることが出来ない
  鼻漏
  発咳
  吐き気
  鼻からの逆流
  扁桃炎
  鼻炎
  喉頭気管炎
  吸引性肺炎
  体重増加が少ない;全身的な発育不全
 抜歯後の急性口鼻瘻は鼻腔内を直接観察することと、片側の鼻孔からの鼻出血によって診断できる
 くしゃみと同側の鼻漏は慢性口鼻瘻の一般的な臨床症状である。
 外傷性口蓋裂の猫では通常両側性鼻出血または、鼻孔の乾燥した血液、上顎歯列弓の正中に沿った、目に見える配列異常、および口蓋粘膜骨膜断裂を伴う、正中の硬口蓋裂が認められる
 全ての口蓋欠損について、欠損部がより尾側に、より大きくなるほど、臨床症状はより重度になる
 外科的な目標は、血管に富んだ、張力のかかっていない遊離組織を閉鎖し、口腔と鼻腔を分けることである
 術式の選択は以下の事項に依存する:
  患者の年齢と全身的な健康状態
  局所組織の生存能力と完全性
  欠損部の位置と大きさ
  フラップに利用できる組織の量
  外科医の好み
 治療が成功する最良の機会は、通常最初の施術時である
 手術部の歯とフラップを傷つける可能性のある歯は、処置が可能になる数週間前に抜いておく
 フラップへの血液供給を保持しておくことが何よりも重要である。
 口蓋組織への血液供給が豊富なため、口蓋手術に伴う出血は顕著なことが多い
 出血をコントロールするには、ガーゼスポンジに指圧をかけるだけで十分なことが多い
 フラップは非外傷性鉗子または支持縫合によって優しく扱う
 フラップはそれを覆う欠損部の1.5倍の大きさであるべきである
 結合組織や大きな断面は可能であれば2層で一緒に縫合する
  モノフィラメント吸収糸を使用する
 張力を掛けた閉鎖は避けなければならない
 可能な場合、縫合線は欠損部の上に位置させないようにする
 口腔、咽頭、鼻粘膜または皮膚から採取した様々なフラップによって外科的修復が行える
 口蓋欠損を完全に閉鎖させるには、複数の施術が必要かもしれないことを、飼い主に警告しておくべきである

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.15
  • 一般外科/麻酔科

・硬口蓋修復のための組織弁オーバーラップ法
 組織弁オーバーラップ法は硬口蓋の正中裂の閉鎖に推奨される
 縫合線にかかる張力が少なく、縫合線が口蓋の欠損部の上に位置しない
 並置縫合する結合組織の領域が大きく、より強い瘢痕組織を作り出す
 双茎弁スライド法よりも確実な結果が得られる
 組織弁の幅が欠損部と歯の間のスペースに限られてしまうので、広い口蓋欠損への使用は難しい
・組織弁オーバーラップ法
 Brockman D, Holt D. BSAVA manual of Canine and Feline Head Neck and Thoracic Surgery 2005
 歯から約1-2mm離し、歯列弓に沿って粘膜骨膜を骨まで切開する
 切開を片側の欠損部の吻側および尾側縁まで広げ、反対側は欠損部の内側縁に切開を施す
 骨膜起子を使用して片側のオーバーラップ組織弁を作り、反対側はエンベロープ弁を作る
 大口蓋動脈を組織弁を起こす際に切断してはならない
 動脈がオーバーラップ組織弁の結合組織側に確認された場合、動脈周囲を慎重に分離して結合組織から遊離させフラップの回転に適合させる
 オーバーラップ組織弁を基部で反転させ、エンベロープ弁の下にマットレス縫合で固定し、結合組織を広い面積で接触させるようにする
 組織弁の固定には、モノフィラメントの吸収糸を用いる
 露出された骨の肉芽形成と上皮形成は、一般に3-4週間で完了する
 治癒過程では軟らかくしたフードや缶詰フードの給与が推奨される
・硬口蓋修復のための双茎弁スライド法
 猫の高所落下症候群に関連した外傷性硬口蓋裂の治療に利用されることが多い
 縫合線は口蓋の欠損部の真上にあり、並置する結合組織の領域は比較的狭い
  張力の掛からない組織の並置縫合が重要である
  2層性の閉鎖が組織の並置を向上させ、張力を軽減し、治癒を改善させる
 術後は軟らかくしたフードや缶詰フードを2〜3週間与える
・双茎弁スライド法
 Brockman D, Holt D. BSAVA manual of Canine and Feline Head Neck and Thoracic Surgery 2005
 口蓋の左右で欠損部辺縁と歯列弓に沿って歯から約1-2mm離し、粘膜骨膜を骨まで切開する
 骨膜起子を使用して、2つのフラップの下を慎重に掘る。骨膜を骨から剥離して挙上する
 大口蓋動脈を確認し、尾側面のフラップを挙上するときには傷つけないように保護する
 フラップを内側に移動させ、互いに縫合する
 二層性の閉鎖を行うことが出来る。
 鼻粘膜は単純結節パターンで閉鎖する。
 その後厚い結合組織と口腔粘膜を単純結節縫合パターンで閉鎖する
 閉鎖にはモノフィラメント吸収糸を使用する
・軟口蓋修復のための双茎弁スライド法
 Brockman D, Holt D. BSAVA manual of Canine and Feline Head Neck and Thoracic Surgery 2005
 欠損部の内側縁に沿って扁桃の尾側縁の位置まで切開を施す
 口蓋組織を分離し、背側鼻咽頭および腹側口腔咽頭弁を両側に作る
 翼状骨の翼状突起を骨折させると口蓋帆張筋の腱部が遊離し、閉鎖部への張力が軽減される
 2つの背側フラップと2つの腹側フラップを口蓋扁桃の中間点か尾側縁まで別々に単純結節パターンで縫合する
 硬口蓋裂と軟口蓋裂の両方の整復が完了する
・口鼻瘻の修復のための唇側粘膜骨膜弁
 Harvey CE Small Animal Dentistry
 犬歯領域の口鼻瘻は、一般に欠損又は抜歯部分を覆う、唇側粘膜骨膜弁を作成し、並置して縫合することによって修復される
 口鼻瘻の口腔側における肉芽組織と上皮層は除去する
 一層性のフラップによる修復のための切開
 骨膜起子を用いてフラップの先端部を挙上する
 辺縁の骨膜付着部をメスの刃で切開した後、小型の鋏で粘膜下を鈍性に剥離する
 動かせるようになったフラップで張力を掛けずに欠損部を覆う
 フラップを硬口蓋粘膜と隣接する歯槽および唇の粘膜に単純結節パターンで縫合する

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.16
  • 一般外科/麻酔科

・大型の、硬口蓋尾側部欠損の閉鎖のための分割口蓋U字フラップ法
 Brockman D, Holt D. BSAVA manual of Canine and Feline Head Neck and Thoracic Surgery 2005
 この方法は、元々は欠損部より吻側の粘膜骨膜からなる大型のU字型フラップの作成として記述された
 この方法では、フラップは2つの別々のフラップに分割される
 欠損部より吻側の硬口蓋に切開を加え、片方はやや短いフラップを、もう一方はやや長いフラップを作成する
 欠損部の上皮縁はデブリードメンする
 骨膜起子を用いて硬口蓋骨より粘膜骨膜弁を挙上する
 この間、フラップの基部に血液供給を行う大口蓋動脈は温存させる必要がある
 フラップの吻側縁で動脈を結紮し、切断する
 初めに小さい方のフラップを内側に回転させ、内側縁を口蓋欠損部の尾側縁に縫合する
 短い方のフラップを縫合した後、長い方のフラップも内側に回転させ、短いフラップの吻側(外側)縁に縫合する
 フラップは重なり合うようになるフラップを口蓋の欠損部辺縁に縫合し、固定する
 欠損部の肉芽形成と上皮形成には2-3週間かかる
・口蓋 – 口蓋欠損の治療
 口蓋欠損の手術後における主要な合併症は術創の離開である
  閉鎖前のフラップの可動化が不十分なことによる縫合線への張力
  外傷または過去の手術によるフラップへの血液供給障害
 フラップ/修復部を触ったり、傷つけないようにするためにはエリザベスカラーが有用である
 術後10-14日目に修復部の検査をする
 関わった全ての組織が治癒するまで、必要とされるフォローアップ手術は行うべきではない
・文献レビュー: 注入と癒着による口蓋形成術:犬モデルにおける予備的研究
 Martinez-Alvarez C, Gonzalez-Meli B, Berenguer-Froehner B et al. J Surgical Res 183: 654, 2013
 目的:
  伝統的な口蓋形成術での粘膜骨膜弁の挙上は顔面中央部の成長を障害する可能性がある。ヒアルロン酸ベースのヒドロゲルは、骨形成たんぱく質2(BMP-2)を運ぶ物質としてin vivoでの最小侵襲性頭蓋顔面骨形成に対する試験に成功している。著者らはBMPを含むヒドロゲルの注入による、口蓋裂の修復に対する新奇のフラップレス法を開発することを目的とした。
 方法:
  先天性口蓋裂の子犬を未治療群(4)または2層弁を使った口蓋形成術(6)または提案する注入/癒着法のいずれかに割り当てた
 実験アプローチ:
  ヒドロキシアパタイトとBMP-2を含むヒアルロンベースのヒドロゲルを、6週齢の子犬の口蓋裂辺縁の骨膜下に注入した。口蓋裂の辺縁同士が接触するようになったら(注入後4週間)、中央部の粘膜を細長く切除し、辺縁同士を縫合した。20週目まで咬合の写真とCTスキャンを撮影した。
 結果:
  ゲル注入後4週間で、口蓋裂の辺縁は正中に達し、人工的に作り出した骨は口蓋骨を拡大させた。内側縁の粘膜を切除し、縫合することで口蓋裂の完全な閉鎖が可能になった。
 結果:
  伝統的な口蓋形成術と比べて、注入法はより容易で術後の回復も早かった。20週目のCTによって2層弁を使った修復では口蓋棚の重複又は屈曲が認められたが、注入群または対照群では認められなかった。
・注入による口蓋形成術
 ヒアルロン酸ベースのヒドロゲルを、6カ月齢の子犬の口蓋裂辺縁に注入
 ゲル注入前およびゲル注入4週間後の犬の口蓋では辺縁の間はほぼ完全に接触している
 内側辺縁の粘膜を切除した後の口蓋裂の辺縁および口蓋裂の水平マットレス縫合による閉鎖
 注入群の犬では口蓋骨辺縁に更なる骨の成長領域が認められるが、対照群では認められない
 2層弁を使った口蓋形成術の犬では、骨の欠損が認められる
・注入口蓋形成術 20週齢の犬のCTスキャン
 注入群の犬 (I/A) は、対照群の犬と比べてほとんど完全に口蓋骨が閉鎖している
 2層弁により治療した犬での口蓋骨に認められる重複と屈曲に注目

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.17
  • 一般外科/麻酔科

・文献レビュー: 犬の両側性軟口蓋低形成に対する一段階修復のための分層軟口蓋蝶番フラップおよび両側頬粘膜回転フラップの使用
 Mullins RA, Guerin SR, Pratschke KM. JAVMA 248: 91, 2016
 症例に関する事柄:
  14週齢、8.5kg、雌のスプリンガースパニエルが両側の粘液膿性鼻漏を伴う慢性鼻炎のため、診察を受けた。この犬には出生時からのクシャミと食物や液体の口鼻逆流の病歴があった。
 臨床所見:
  麻酔下での口腔内検査によって、両側の裂を伴う、短く形成が不完全な軟口蓋が認められた。この犬では偽口蓋垂は病態の明らかな特徴ではなかった。
・スプリンガースパニエルにおける両側性軟口蓋低形成(裂)
・右側口咽頭における口蓋扁桃と喉頭蓋の先端(輪郭を示す)の位置に注目分層軟口蓋蝶番フラップの輪郭を点線で示すフラップを反転させる方向を矢印で示す
 Mullins RA, Guerin SR, Pratschke KM. JAVMA 248: 91, 2016
 治療:
  犬は分層軟口蓋蝶番フラップと両側頬粘膜回転フラップを用いた一段階軟口蓋再建術を受けた.
 結果:
  術後3年目に得られた長期的なフォローアップ情報によって、犬の健康状態は良好で、口鼻逆流は消散したことが判明した。しかし、間欠的な軽度のクシャミと鼻漏は持続していた。鎮静下での口腔内検査によって、両側の口蓋裂は小さくなったが、正常な口蓋の長さには達していないことが判明した。
・術式
 分層軟口蓋蝶番フラップの作成と反転に注目。
 外側縁を咽頭壁の切開部(矢印)に、モノフィラメント縫合糸の単純結節パターンで縫合する
 口蓋扁桃の尾側面に達するフラップの長さを選択するのが理想である
 咽頭の両側に逆Uの字の頬粘膜弁を作成し、蝶番フラップの上に内側に回転させる。
 頬粘膜弁の外形(斜線部分)と粘膜弁を回転させた方向に注目
 矢印は粘膜弁の基部を示す
 この弁を蝶番フラップにモノフィラメント吸収糸で単純結節縫合する
・術後の画像
 軟口蓋は両側の裂を塞ぐことで再建されている
 再建された口蓋内には正常な口蓋筋がないため、機能に影響する可能性がある
 完全な機能はないものの、最小の臨床症状を伴う良好な生活の質を得ることは出来る
・文献レビュー: 猫の両側性軟口蓋低形成の再建術
 Headrick BA, McAnulty JF. JAAHA 2004;40:86-90
 2歳、避妊済み雌、ドメスティックショートヘアーの猫が呼吸困難、上部呼吸器の鬱血および吸引のヒストリーによって来院した
 口腔内検査: 検査によって口蓋垂に似た軟口蓋低形成が両側性に認められた
 軟口蓋を再建するために、新規の手術法をおこなった
  一段階
  硬口蓋に由来する粘膜骨膜弁
  2つの咽頭壁由来のランダムパターン粘膜弁
  猫の両側性軟口蓋低形成に関する初めての報告
  軟口蓋再建術に対する新しい方法
・軟口蓋欠損を修復するために咽頭壁と硬口蓋尾側に施した初めの切開を示した図
 組織弁は硬口蓋の口腔面から得られた粘膜骨膜弁(A)を含む咽頭側壁に由来し、鼻咽頭まで背側に及ぶ、2つのランダムパターン粘膜弁
 初めに咽頭壁の組織弁を挙上する。これらの弁の付着基部は最後の後臼歯の尾側縁から始まり、尾側に扁桃窩の頭側縁までの範囲である
 粘膜骨膜弁を180度尾側に反転させて咽頭側壁に縫合し、新しい口蓋の背側面を形成していることを示す図
 弁の範囲は歯槽弓の左から右とし、扁桃窩に届くように十分長くする。基部の付着部は硬口蓋の尾側縁にある。
 大口蓋動脈は可能であれば温存させる。
 この弁の外側縁を、咽頭壁弁を挙上することにより粘膜が剥離されている咽頭壁へ縫合する。
 露出された粘膜骨膜弁の口腔面に咽頭側壁弁を縫合し、新しい軟口蓋の腹側面を形成している図
 咽頭壁粘膜弁を正中で合わせて縫合し、尾側縁で粘膜骨膜弁に縫合して上皮を並置させ、これらの辺縁の創傷の一次治癒を促進させる
 最終結果として口腔および鼻咽頭面の両方に上皮に被われた軟部組織の(口蓋)棚ができる
・術後6ヵ月目の構築された軟口蓋の写真
 尾側面の中央にいくらかの拘縮があるが、全体的な口蓋棚の延長は、嚥下と呼吸時に正常な機能を回復させるのに十分であった
・文献レビュー: 猫の両側性軟口蓋低形成の再建術
 Headrick BA, McAnulty JF. JAAHA 2004;40:86-90
 結果:猫は24時間で退院し、採食も良好であった。
  食道瘻チューブは設置しなかった。治癒の間の手術部位への外傷を減らすことを考慮したためである。
 治癒2−3週間目に炎症と壊死による軽度の口内炎が、咽頭弁の頭側縁の硬口蓋の開放創との接合部に2箇所生じた
 手術2ヵ月後に同側の鼻漏が一度認められた
 4年後のフォローアップでは感染または採食や飲水の困難さは認められなかった

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.18
  • 一般外科/麻酔科

・文献レビュー: 軟口蓋欠損の修復に対する両側単茎粘膜弁オーバーラップ法
 Griffiths LG, Sullivan M. JAAHA 2001;37:183-186
 目的: 10頭の動物における先天性軟口蓋裂の修復に対する両側単茎粘膜弁オーバーラップ法の臨床的転帰を報告すること
 供試動物: 手術時の年齢1ヵ月齢から13カ月齢の犬9頭および猫1頭
  6頭は6ヵ月未満、2頭は1カ月齢、1頭は2カ月齢、2頭は4カ月齢、1頭は5カ月齢であった
 6頭は硬口蓋裂も併発しており、粘膜骨膜弁法で修復している
 フォローアップ検査を手術の2-12ヵ月後に行った
・術式図示
 図は両側単茎粘膜弁を挙上する部位を示す
 口蓋裂の右側では弁は口腔粘膜から構成される
 口蓋の左側では、弁は鼻粘膜から構成される
 遊離縁から5mm離して平行に右半分の軟口蓋の口腔粘膜に切開を加え、口蓋裂欠損部と同じ長さまで尾側から吻側に切開を広げる
 切開の吻側および尾側端で、正中に向かって直角に切開する
 口腔粘膜下を剥離し、軟口蓋の右半分の軸面を基部とした弁を作成する
 軟口蓋の左半分を裏返し、鼻粘膜を露出させる
 同様に軟口蓋半分の体軸面を基部とする、対応する鼻粘膜弁を作成する
 口蓋筋を閉鎖させようとしなかった
 鼻粘膜弁を口腔に反転させると共に、鼻粘膜弁を
 起こしたことによって生じた欠損部に口腔粘膜弁を縫合する。
 鼻粘膜弁を口腔粘膜弁を起こした後の欠損部に縫合する
 最後に2つの弁の尾側縁を合わせて縫合する
・結果:
 全ての動物で、 1回の手術で十分に合併症のない口蓋の治癒が得られた
 1頭の犬では漿液性鼻漏が継続していたが、それ以外は正常であった
 他の全ての症例では、4週間後の術後再検査までに臨床症状が完全に解消していた
 2から12ヵ月のフォローアップ期間中に合併症は確認されなかっ
・結論:
 両側単茎粘膜弁オーバーラップ法は口蓋裂の完全な粘膜被覆と一次治癒による迅速な治癒を可能にした。
  拘縮のような二次治癒の合併症の回避
  この方法はまた、縫合線を外側にすることで、口蓋筋による牽引の影響と修復部への張力を最小にしている。
  フィーディングチューブの必要な動物はいなかった
 動物が比較的成熟し、頭蓋骨の成長が終わるまで、手術を遅らせるべきであると主張されている
  早期の手術、特に硬口蓋の手術によって正常な成長が妨げられる可能性はあるが、この動物群では成熟した際の機能に問題は見られなかった

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.19
  • 一般外科/麻酔科

・口蓋 – 軟口蓋過長症
 軟口蓋過長症は短頭種気道症候群の一部である
 粘膜上の乱れた気流と軟口蓋への気圧性外傷が進行性の浮腫と腫脹を引き起こす
 時間の経過と共に気道の陰圧と外傷が喉頭の軟骨支持を脆弱化させ、披裂軟骨の折れ曲がりと進行性の喉頭虚脱を招く
 長すぎる軟口蓋は喉頭内に突出し、症候性の犬に喘鳴を引き起こす
 流涎、嘔吐および吐き気を含む、中程度から重度の消化管症状が短頭種の犬に認められることが多い
 呼吸努力が増加すると共に、症状がより重度になる
 消化管異常には、食道偏位、胃食道逆流、裂孔ヘルニア、食道炎、幽門粘膜過形成および胃炎が含まれる
 呼吸努力の増加による胸腔内気道の陰圧が胃食道逆流や食道炎を発症させる確率を高めている
・口蓋 – 軟口蓋過長症 : 臨床症状
 犬は一般的にいびき呼吸や呼吸困難のため来院する
 より重症の犬ではチアノーゼや虚脱を示すこともある
 多くの犬では、臨床症状を示した時期がしばらくみられ、その後運動や暑い気候によって急性に悪化する
 中には、他の病態のためにかけられた麻酔から覚醒する時まで、最小の臨床症状しか示さない犬もいる
 主に短頭種症候群に関連した消化管症状を示す犬もいる
・口蓋 – 軟口蓋過長症:臨床症状/診断
 重度の呼吸困難の犬には迅速な評価が必要であり、呼吸停止が切迫しているときには気管挿管を行う
 ほとんどの犬は冷却、アセプロマジン(0.01 から 0.05 mg/kg/IV)による鎮静、酸素供給および喉頭部と咽頭部の腫脹を軽減するためのデキサメサゾン(0.05 to 0.2 mg/kg/IV) に反応する
 患者が安定するまで、過剰なハンドリング、X線検査や他の診断検査は最小限に留めておく
・口蓋 – 軟口蓋過長症:臨床症状/診断
 一度の麻酔中に口蓋、咽頭および喉頭の評価を行う
  将来的に、鼻甲介の閉塞を評価するためにも鼻鏡検査や咽頭の内視鏡検査が実施されることが一般的になるだろう
 導入前または導入時に抗コリン作用薬を投与し、検査の妨げとなる流涎を軽減し、咽頭鏡検査中の迷走神経刺激による徐脈の可能性を低くする。
 麻酔を導入したら、口蓋、咽頭および喉頭を喉頭鏡を用いて検査する
 吸引性肺炎の臨床的、またはX線学的所見がある場合、気管内洗浄を行っても良い
・外科的治療
 犬を胸骨臥位に保定する
 上顎をガーゼ包帯でつり下げる。包帯は上顎歯の周囲にかけ、2本の棒か頭上の固定具に結ぶ
 下顎は開口器か、手術台にテープで固定して開口させたままにする
 提案される口蓋切除の位置は口蓋扁桃の尾側面である
 最近になって、多くの外科医が口蓋扁桃の頭側面近くまで口蓋を切除する、より積極的な切除を行っている
 血液が気道に入らないようにThroat pillowを使っても良い
 A.口蓋の切除線は口蓋扁桃の尾側面と頭側面の間に設定する
 B. 鉗子か支持縫合を用いて口蓋を前方に引き出す。鋏を用いて口蓋を部分的に切断した後、吸収糸を用いて連続パターンで背側と腹側の上皮面を閉鎖していく。部分的に切断し、縫合することで出血を軽減させる。
 切断の際に背側上皮面を背側に牽引する。隙間が開いたままだと、口蓋を放したときに出血するため、確実にこの辺縁を縫合に含めることが重要である。
・口蓋 – 軟口蓋過長症 : 外科的修正
 鋏に加え、軟口蓋の外科切除は炭酸ガスレーザーや電熱フィードバック組織シーリング装置を用いて行われている。
 炭酸ガスレーザーは通常、出力5-6ワットの連続モードにセットする
 咽頭尾側と気管チューブ周囲の領域はレーザービームから保護するため生食水で湿らせたガーゼで覆わなければならない
 シーリング装置を使用する場合、患者を仰臥位にすると手術がやりやすくなる。
 レーザーかシーリング装置を使用した切除では、背側と腹側上皮面の縫合の必要はない
・口蓋 – 軟口蓋過長症 : 合併症と予後
 短頭種の患者は覚醒が困難なことから、合併症が起こる可能性がある
 吸引性肺炎や、麻酔から覚醒しないことに関連して死亡する可能性がある
 呼吸困難とチアノーゼは通常、持続する上部気道閉塞に関連している
 あまり重度ではない合併症には発咳、呼吸時の音、嘔吐および吐き気がある
 軟口蓋切除後の犬の予後は良好である
 進行性喉頭疾患がない限り、90% の犬の転帰は良好から優良であることが報告されている

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.20
  • 一般外科/麻酔科

・扁桃摘出術
 扁桃摘出術は、扁桃腫瘤、慢性再発性扁桃炎および短頭種症候群に関連した咽頭閉塞の診断と治療のために適用される
 特に、高齢のイングリッシュブルドッグでは、扁桃は上部気道閉塞の大きな原因となっている
 扁桃摘出術は他の気道変更術と共に行われる。
・Fossum TW ed. Small Animal Surgery
 扁桃を鉗子で把持し、扁桃窩から引き出す
 扁桃の基部をメスの刃か鋏で切断する
 出血を指圧か電気焼灼器で制御する
 あるいは、電気焼灼器かレーザーを用いて切断と止血を行うことが出来る
 扁桃を切除した後、扁桃窩粘膜を3-0か4-0の吸収糸で並置縫合する
・文献レビュー: 犬の軟口蓋切除および扁桃摘出に対するバイポーラー血管シーリング装置の使用に関する臨床的影響と、切除した扁桃組織の組織学的評価
 Cook DA, Moses PA, Mackie JT Australian Vet Journal 93, 12: 445; 2015
 目的: バイポーラー血管シーリング装置(BVSD)による軟口蓋切除と扁桃摘出術が臨床的呼吸スコアを改善させるかどうか調査すること。BVSDによる摘出後の扁桃組織に対する病理組織学的変化を記述すること。
 方法: 短頭種症候群に関連した上部気道閉塞の臨床症状がある犬22頭に関する症例シリーズ
 軟口蓋と扁桃をBVSDを用いて切除した
 適応であれば、鼻翼形成術と喉頭小嚢切除術を行った
 術前、術後24時間目、5週間目に臨床的呼吸スコアを付けた
 扁桃組織を2種類の設定でのBVSDによって生じたとみられる組織損傷の深さについて組織学的に評価した
・The Ligasure Small Jaw Instrument および Force Triad Energy Platform ソフトウエアバーション3.50を使用した
 犬を胸骨臥位で維持した。扁桃を鉗子で把持し、扁桃窩から引き出した。出力を1または2に設定し、BVSDを基部に当てた。
 デバイスを進め、扁桃を切除するための必要に応じてアクティベートさせた。一般に、各扁桃に対し1-2回のアクティベーションが必要であった。
・軟口蓋切除
 軟口蓋尾側端を正中で把持し、吻側に引き出した
 BVSDを左尾側辺縁から初めて口蓋を横断するように当てた
 口蓋の尾側部分を切除するのにデバイスを3から4回当てる必要であった
・BVSDによる扁桃摘出術後の扁桃窩と隣接する咽頭組織の外観
 隣接組織に対する白化(熱による損傷)に注目
 軟口蓋は扁桃窩の尾側縁より吻側で切除している
・文献レビュー: 犬の軟口蓋切除および扁桃摘出に対するバイポーラー血管シーリング装置の使用に関する臨床的影響と、切除した扁桃組織の組織学的評価
 結果:
 BVSDによる軟口蓋切除と扁桃摘出術は、各時点で全ての犬の術後の呼吸スコアを有意に改善させた。
  術後24時間目と5週間目の呼吸スコアに差異はなかった
  どの時点においても出力設定と呼吸スコアに差異はなかった。
 出力設定1の方が2よりも扁桃組織の損傷が有意に浅かった
 術後2頭が咽頭腫脹の症状を示した
  1頭のフレンチ・ブルドッグは挿管と16時間の麻酔が必要であった
  鼻からの酸素吸入と鎮静による更なる治療後、犬は24時間後に退院した。
 結論:
 BVSDによる軟口蓋切除と扁桃摘出術は臨床的呼吸スコアの有意な改善をもたらした
 設定1は2と同様の効果がありながら、組織損傷はより少ない
 BVSDはCO2レーザーよりも軟口蓋切除が速く、術後の合併症が少ないことが示された
 術後早期の期間では、咽頭腫脹による呼吸困難について患者を観察するべきである

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.21
  • 一般外科/麻酔科

・文献レビュー: 短頭種閉塞性気道症候群に罹患した犬における軟口蓋の組織学的評価
 Crosse KR, Bray JP, Orbell GMB et al. New Zealand Vet Journal 63(6), 319-325, 2015
 目的:重度に罹患した短頭種犬の、軟口蓋の肥厚した吻側部から採取した組織を組織学的に検査すること、およびその所見を対照犬の同様の領域の所見と比較すること
 方法: 短頭種の犬9頭と中頭種の犬4頭の軟口蓋から楕円形のバイオプシー標本を採取した。
 バイオプシーの範囲は硬口蓋との接合部から遊離尾側縁で軸を通過し扁桃窩までとした。
 結果: 対照犬と比較した場合、臨床的に罹患した犬の組織学的所見は急性および慢性筋変性および壊死の顕著な増加を示した。
 臨床的に罹患した犬のサンプルでは対照犬と比較して筋肉の割合が減少し、膠原性基質や唾液腺組織の割合が増加していた。
 結論: 閉塞性気道症候群の犬の口蓋の厚さの増加は、筋肥大によるものではなく、間質の増加と唾液腺組織の割合の増加によるものであった。
 特に対の口蓋筋において筋肉量の減少も認められ、これが口蓋機能に影響している可能性がある。
 これらの患者における口蓋機能不全と口蓋の厚さの増加が術後に臨床症状が継続する原因かも知れない
・文献レビュー: マルチレベル上部気道手術が重度の短頭種症候群に罹患した犬の生活にどのような影響を与えるか?構造化された術前術後の飼い主へのアンケート
 Pohl S, Roedler FS, Oechtering GU Veterinary Journal 210(2016), 39-45
 犬の短頭種気道症候群は、様々な程度の症状を様々な範囲で引き起こす、多様な解剖学的異常を特徴とする。
 この多様性は、上部気道手術後の外科的転帰の評価を困難にしている。
 方法: この研究は構造化されたアンケートを用いて、短頭種犬が受けたマルチレベル上部気道手術の2週間前と6ヵ月後に犬の飼い主が認識する、広範囲の動物福祉に関連した障害の程度と頻度を調査した。
 方法: 全ての犬が鼻孔狭窄(鼻翼形成術)、鼻腔(レーザーによる鼻甲介切除術)、咽頭(口蓋形成術および扁桃摘出術)および、適応であれば、喉頭の手術(レーザーによる反転した喉頭室の焼灼および部分楔状切除術)を受けた
 パグ37頭およびフレンチブルドッグ 25頭を評価した
 結果:
  全ての犬において、短頭種症候群に関連した臨床症状は術後顕著に改善した。
  生命に関わる事象の著しい減少が最大90%に認められた。
  窒息発作は60%から5%に減少した
  虚脱事象は27%から3%に減少した
  睡眠に関する問題は55%から3%に減少した
  動不耐性に顕著な改善が、暑熱への不耐性にいくらかの改善が認められた。
 結論:
  短頭種症候群の犬には、マルチレベルの手術が非常に有効であった
  しかし、犬の飼い主は顕著な改善と認識しているものの、これらの犬は依然として臨床的に罹患しており、この遺伝性疾患によって起こる福祉に関連した障害を示し続けている。
  短頭種の犬は外科的治療の継続的な発展から恩恵を受けられるかも知れないが、明らかな短頭種症候群を示す犬の繁殖をやめることに焦点を向けるべきである。

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.22
  • 一般外科/麻酔科

・文献レビュー: 外科的治療を受けた、あるいは受けない喉頭蓋後傾の犬の臨床的特徴と転帰:24例
 Skerrett SC, McClaran JK, Fox PR et al. J Vet Intern Med 2015; 29: 1611-1618
 背景:
  喉頭蓋後傾(ER)は犬の上部気道疾患のまれな原因で、症例報告は少ない
  この疾患は吸気時の喘鳴と、虚脱発作を伴う生命を脅かすような呼吸困難を招く可能性がある
  声門裂の閉塞を引き起こす、吸気中の間欠的自然発生性喉頭蓋後屈によって特徴付けられる
  上部気道検査または上部気道の透視検査中に診断される
 犬の病因に関する仮説には、喉頭蓋の骨折または軟化、甲状腺機能低下症に関連したニューロパシー、舌下神経、舌咽神経、またはその両方の除神経がある
 ERの過去の症例報告は、2頭の犬での喉頭蓋固定術による治療の成功を示していた。
 ある症例報告では、複数の喉頭蓋固定術が失敗した犬は、良好な転帰を得るために喉頭蓋亜全切除術が必要であった。
 仮説/目的: ERの犬に関して、臨床的特徴、併存疾患、外科治療vs.内科治療による転帰、長期的なフォローアップを記述すること。著者らはERの犬は上部気道に併存疾患があり、外科的治療は内科治療のみよりも長期的な転帰が改善するだろうという仮説を立てた
 供試動物: 飼い犬24頭
 内科治療: 鎮咳薬、コルチコステロイド、鎮静剤および抗生剤を組み合わせて投与した
 外科的治療:
  一時的喉頭蓋固定術: 喉頭蓋(軟骨)の舌面と舌の基部の間に平均2箇所の水平マットレス縫合を施す
  永久的喉頭蓋固定術: 喉頭蓋舌面から粘膜の一部を切除し、上記と同様の方法を行う
  喉頭蓋亜全切除術: 喉頭蓋先端から1センチを切除する(レーザー/鋭的切除)
・喉頭蓋後傾に続発して呼吸音と吸気努力の増加が見られた犬の口咽頭を内視鏡で評価した際に得られた画像
 喉頭蓋(白星)は吸気中に尾側に変位し、声門裂の閉塞を引き起こしている
 A.気管挿管前。喉頭蓋(白星)が尾側に後傾し、声門裂を閉塞している様子が認められる
 B. 気管挿管後、縫合糸を喉頭蓋基部の舌(黒星)に通している
 C.縫合糸を舌の基部に通した後、喉頭蓋に通し軟骨に掛ける。
 D. 図は喉頭蓋と舌の基部を並置させている縫合糸(矢印)を示している。
・文献レビュー: 外科的治療を受けた、あるいは受けない喉頭蓋後傾の犬の臨床的特徴と転帰:24例
 結果: ERの犬は一般に中〜高齢、小型犬、避妊済み雌でボディ・コンディション・スコアは>6/9であった。
 ヨークシャーテリア、コッカー・スパニエル、チャイニーズ・パグ、ペキニーズが最も多く認められた
 喘鳴と呼吸困難が最も多い主症状であった
 症例の79.1%で上部気道疾患の併発または病歴が記載されていた
 軟口蓋過長、気管虚脱、喉頭小嚢反転、喉頭浮腫、気管支虚脱、喉頭虚脱、喉頭麻痺
 24頭中19頭が外科的治療を受けた
 一時的喉頭蓋固定術 (19), 永久的喉頭蓋固定術 (8), 喉頭蓋亜全切除術 (1)
 結果:
  外科的治療を受けた犬の52.6%と内科治療のみを受けた犬の60%で臨床症状が軽快した
  外科的治療を受けた犬では、呼吸クリーゼの発生率が術前の62.5%から治療後には25%まで低下した
  全体的な中央生存期間は875日であった
 結論:
  ERと診断された犬では2年以上の長期生存期間が期待できる
  このデータに基づいて外科的治療の必要性を決定することは出来ないが、上部気道疾患の併発がない犬は吸気時の陰圧を緩和するための永久的喉頭蓋固定術が有効である可能性がある

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.23
  • 一般外科/麻酔科

・永続的気管造瘻術
 永続的気管造瘻術とは、気管粘膜と皮膚を縫合することによって、安定した瘻孔を作成する手術と定義される
 最も一般的な適応症:
  猫の喉頭腫瘤または犬の喉頭虚脱
  嚥下障害も伴う犬の喉頭麻痺
  回復できない喉頭の外傷
 永続的気管造瘻術は過去に一時的気管造瘻術を行った部位に行うことが多い
  そのため、一時的気管造瘻術は第2または第3気管輪の部位に行うことが重要である
  皮膚から離れているため、気管の中央から遠位部に瘻孔を作成することは難しい
・気管の解剖学と瘻孔の部位
 気管輪が弱い、または部分的に
 虚脱している犬猫に重要なのは、気管全周の腹側3分の1を超えて気管輪を切除しないようにすることである
 気管弓を少なくしすぎると気管遠位に小さな開口部が生じることになる
・術式
 Fossum TW ed. Small Animal Surgery
 気管の上で腹側正中切開し、正中で胸骨舌骨筋を分離する
 気管の背側で、胸骨舌骨筋を非吸収糸のマットレス縫合にて並置縫合する
 こうすることで気管を皮膚の近くに挙上させ、気管の不動化に役立ち、気管/皮膚縫合線への張力を防ぐ
 3から4個の気管輪の全周の腹側三分の一を、可能であれば粘膜を残して切除する
 粘膜を切開し、皮膚の辺縁と並置縫合するためのフラップを残す
 皮膚の表皮下領域を粘膜周囲の気管組織と並置するように単純結節縫合を用いて縫合線を強化する
 気管粘膜を3-0/4-0 吸収糸の単純結節または単純連続パターンで皮膚と並置縫合する。
・永続的気管造瘻術
 多くの短頭種では、瘻孔の外側にある皮膚ヒダを切除すると、閉塞の回避に役立つ
 粘膜から皮膚の治癒は2週間以上かかる
 この間、治癒している粘膜/皮膚接合部への損傷を防ぐため、瘻孔から分泌物を優しく拭き取る
 初めは4-6時間毎に瘻孔を清拭し、吸引する
 分泌物は徐々に減少し、大半の犬では最短で1ヵ月後に最低限になるが、予期せぬ粘液栓がないか一日数回瘻孔を調べる必要がある
 永続的気管造瘻術後、上部気道はバイパスされるため、吸入された空気の冷却と加湿が減少する
 可能であれば患者は涼しく、埃のない環境におくべきである
 必要な場合、減量を始める
 拘束のためには首輪の代わりにハーネスを使用する
 必要な場合は、瘻孔周囲の毛は常に刈っておく
 永久的気管切開術を受けた動物は、水を吸引し、死亡するリスクがあるため、泳がせないようにする

犬猫の上部気道手術 最近の傾向と文献のレビュー vol.24
  • 一般外科/麻酔科

・文献レビュー: 犬における永続的気管造瘻術の長期的転帰:21症例 (2000-2012)
 Occhipinti LL, Hauptman JG. Can Vet J 2014; 55:357-360
 目的:
  上部気道閉塞のため、永続的気管造瘻術を受けた犬の長期的転帰、生存期間および合併症を報告すること
 方法:
  12年間にわたり、2箇所の施設で21頭の犬の医療記録からデータを収集した
  どちらも小型犬、短頭種および大型犬を含めた
  患者を死亡するまで追跡調査した。合併症、死因、生存期間を報告した
 結果:
  切除した気管輪の平均数は4.6(3-7)であった
  21頭中19頭は生存して退院した
  1頭は術後すぐに心肺停止が起こり、死亡した
  1頭は吸引性肺炎のため、手術から24時間後に安楽死となった
 結果:
  重大な合併症が患者の50%に報告され、20%は修正手術を受けた
   吸引性肺炎 (5)
   瘻孔の閉塞および修正手術 (4)
   3頭は皮膚ヒダの切除が必要だったため; 1頭は瘻孔の狭窄のため
   心肺停止 (1)
  中央生存期間は328日で、患者の 25% は1321日以上生存した
 死因:
  呼吸器以外の疾患による安楽死 (8/19, 42%)
  気道閉塞による急性死 (5/19, 26%) 術後6日から4年
  呼吸器疾患による安楽死 (4/19, 21%)
  呼吸器以外の疾患による死 (2/19, 11%)
 結果:
  生存期間は診断または合併症の発生によって有意な影響を受けなかった
   短頭種気道症候群、喉頭虚脱、喉頭がん、喉頭の外傷、喉頭奇形、喉頭麻痺
 結論:
  永続的気管造瘻術は、末期の気道閉塞の患者に対し、実行可能な処置である
  患者の部分母集団は気道閉塞により術後様々な期間を経て急性に死亡する
・文献レビュー: 猫における上部気道閉塞の治療のための永続的気管造瘻術の転帰: 21症例 (1990-2007)
Stepnik MW, Mehl ML, Hardie EM et al. J Am Vet Med Assoc 2009; 234:638-643
 目的:
  上部気道閉塞に罹患した猫における永続的気管造瘻術の転帰を確認すること
 研究デザイン: 回顧的症例シリーズ
 供試動物: 猫21頭
 結果:
  上部気道閉塞の原因
   扁平上皮癌 , リンパ腫, 炎症性喉頭疾患, 喉頭麻痺, 外傷, 由来不明の腫瘤 (1)
  21頭中14頭は手術直後の期間に合併症を発症した
   粘液栓による呼吸困難 (14)
  6頭は瘻孔、気管または気管支における粘液栓による窒息により入院中に死亡した
  猫15頭は退院した
   5 頭は瘻孔の狭窄(1)または粘液栓の形成により突然死した
   7 頭は疾患の進行(通常は腫瘍)により安楽死となった
   2 頭は研究時に生存しており、1頭は追跡できなくなった
  全体として、中央生存期間は猫20頭で20.5日であった
   範囲は 1 日から 5 年
  炎症性喉頭疾患のため手術を受けた猫が死亡する確率は、他の理由で手術を受けた猫の6.61倍高かった
 結論:猫の永久的気管切開術は、高い合併症発生率と死亡率に関連している

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